はじめに

近年、製造業界は様々な課題に直面しています。

例えば、働き方が多様化したことによる慢性的な人手不足。人手が足りない中、従来のような生産性を保つ方法を、多くの企業が模索しています。

また、製品を作る過程で発生する機器のトラブルやエラーによる品質の低下。これらも、人手不足に加えて、取り組まなければならない課題のひとつです。

これらの問題を解決するため、製造業界全体では、「生産ラインの自動化」に本格的に取り組む企業が増えてきています。以前より、生産性向上や品質改善を目的とした生産ラインの自動化は注目されていましたが、人手不足により、さらにその取り組みに参画する企業が増えています。

ここでは、生産ラインの自動化を進めることによるメリットとデメリット、それらに対して企業が取り組めることについて、ご紹介いたします。

生産ライン自動化によるメリット

生産ラインの自動化には様々な方法がありますが、例えばロボットやIoT、AIなどのテクノロジーを導入することによって、製品の生産ラインに関わるすべての工程を自動化・データ管理することが可能になります。その結果、個人の知識やノウハウ、例えば長年の経験や勘に頼って行われていた工程などを、再現性高く、誰もが扱えるものにすることができます。少ない人数でも、適切な品質を保った生産が可能になります。

こういった属人的な知識・ノウハウに頼ってしまっているという問題は、日本の様々な業界で発生しており、製造業以外の多くの業界でも、自動化が取り組まれはじめています。

例えば、畜産業界では、家畜の育成方法や栄養価の高い飼料の配合方法は、農家の長年の経験や勘に頼って行われていました。そして、それらの技術が上手く継承されないことが、慢性的な人材不足や、後継者不足につながっていました。

そこで、IoT・AIの導入により、それらの知識やノウハウをデータ化することで、家畜の理想的な育成モデルを見える化。そのデータをもとに、適切な栄養価を測りながら、誰でも飼料の配合を微調整することができるようになりました。

このように、自動化によって、人手不足による生産効率の低下を解消している企業が、業界問わず存在しています。

また、製造業界のもうひとつの課題となっていた、機器のトラブルやエラー。

これらに関しても、人間に代わって機械が生産ラインを動かすことにより、ヒューマンエラーが減少し、安定した品質の供給を維持することが可能になります。

上記のように、人手不足とエラーの発生、どちらも解消できる可能性があるというのが、生産ラインの自動化を導入するメリットと言えるでしょう。

生産ライン自動化によるデメリット

生産ラインの自動化を取り入れることによって、様々なメリットが得られる反面、デメリットもあります。

まず、生産ラインの自動化を取り入れるにあたって、直面するのは、「導入コスト」の問題です。かかる費用はもちろんのこと、ただシステムやロボットを導入する以外にも、今ある関連設備との連携を考慮しなければならなかったり、自動化によって新たに発生する安全面を確保しなければならなかったりと、様々なことに対応しなければなりません。場合によっては、機器をすべて取り替えなければならなくなるケースも発生するでしょう。導入コストが高すぎるというのは、デメリットの一つと言えます。

次に、自動化により安定的な品質が確保されると謳われてはいますが、実際は、現在の技術では、完全な無人化はまだ難しいといわれています。なぜならば、精細な作業を要求される場面や、トラブルの対応などには、どうしても人の作業や監視が必要になってしまうからです。そして、ロボットの調整や組み立て、メンテナンス管理など、知識を備えた人材も必要になります。

もしも、すべての工程をロボットに任せられるようになったとしても、何かあった時のために、そのロボットを監視する人間が必要になり、ロボットが24時間稼働し続けることができるようになっても、今度は24時間ロボットを監視し続ける人間が必要になってしまう。そして、それらの監視を行う人間はもちろん、ロボットを扱う知識を持っていなければならない。

このように、導入したものを「管理」するために新しい人手が必要になり、従来とはまた違う意味での人手不足が発生してしまうことも、デメリットと言えるでしょう。

メリット・デメリットを踏まえて、導入のために企業が取り組めること

上記のように、生産ラインの自動化には多くのメリットとともに、コストや導入後の運用など、デメリットもさまざまあることをご紹介しました。

ここからは、それらを踏まえた上で、生産ラインの自動化を実現するため、企業の皆様が取り組めることを2つ、ご紹介いたします。

まずは、先ほどのデメリットでも紹介した、AIやロボットを扱える専門スキルを持った人材の確保です。従来の製造業には必要とされていなかったスキルを持つ人材を、一から自社で育成をすることは不可能ですので、そういったスキルを持つ人材を探し、雇用をすることで、自社内にナレッジを蓄積させることが可能になります。

しかし、ITスキルを持つ人材は現在、売り手市場。どの業界も自動化の導入を検討していると述べたように、その専門性を持つ人材を欲しがっている企業は、星の数ほどいます。

そこで、そういったスキルを持つ人材を、自動化の導入とともに外注し、操作や管理を協力してもらう、というのが、もうひとつの解決策です。

その際に大切なのは、すべてを専門家に丸投げしないことです。
自動化は、あくまで手段の一つ。自動化という手段の導入を通じて、何を実現したいかは、自社で決めるものです。その上で、AIやロボットでできること・できないことを専門家とともに見極めて、お互いに連携を取りながら進めていくことが、最も重要です。

おわりに

生産ラインの自動化にはメリット・デメリットがあることを紹介いたしましたが、遅かれ早かれ、世界的な製造業の動きを見ても、日本の製造業にもこのようなテクノロジーを導入していかなければならない時代がやってくるでしょう。言い換えればそれは、日本の製造業は、まだまだ進化する可能性に満ちているとも言えます。

今回ご紹介した内容が、その進化に役立てる知識のひとつとなれば幸いです。