私たちが日頃使っている電子機器や家電など、電化製品を作る際には電気・電子の知識やノウハウが不可欠です。電気・電子分野とは、製品に電力を供給する仕組みやインフラを扱う電気工学と、製品に使われる回路など電子デバイスの設計と情報処理を扱う電子工学を合わせた領域です。
その電気・電子分野に精通したエンジニアを育成するため、知識やノウハウを学び、測定して認定する「E検定」が実施されています。今回はE検定を主催する電気・電子系技術者育成協議会事務局長の近森様と、講師の三浦様にお話を伺いました。
インタビューイー紹介
近森 満 / Mitsuru Chikamori
株式会社サートプロ 代表取締役CEO
沖電気工業関連会社入社後、ナショナル・コンピュータ・システムズ・ジャパン株式会社の代表取締役社長や株式会社UML教育研究所代表取締役社長を歴任し、2006年に株式会社サートプロを創業。IT教育サービス業として技術者の人材育成と教育支援を主軸に事業を展開。
三浦 元 / Hajime Miura
個人事業主
株式会社東京精密、株式会社新潟インテック技研などを経て、2002年に株式会社テクノホロンへ取締役として入社。2019年からは同社代表取締役に就任。2023年に退任後、個人事業主として活動を開始。
電気・電子分野のノウハウを体系的に学び、習得できるE検定
――はじめに、E検定とはどのような試験なのか、教えてください。
(近森) E検定は、電気・電子技術者向けの資格試験です。Eは「Electronics(エレクトロニクス)」の略であり、対象分野は家電や通信、自動車、エネルギー産業など多岐にわたります。受験される方は、電気・電子エンジニアやシステムエンジニアが中心ですが、学生も多く受験されています。
試験は難易度に応じてレベル1から3に分かれ、レベル1は基礎、レベル3は開発経験を必要とする高度な内容です。試験形式は、紙と鉛筆によるマークシート方式の「全分野試験」「基本分野試験」と、全国どこでも受けられるCBT方式の「レベル1試験」があり、企業内で実施可能な「オンサイト試験」も提供されています。コロナ禍での試験中止を踏まえ、一部の大手メーカーから行っているオンライン試験の段階的導入に向けた準備も進行中です。
電気・電子エンジニアとして、幅広く知識を持っていて欲しい
――E検定はどのような背景で始められたのでしょうか。
(近森)
E検定を運営している電気・電子系技術者育成協議会理事長の加藤さんは、元々株式会社デンソーの技術部門でトップだった方です。そしてE検定の元となる評価試験はデンソーの社員教育用のコンテンツとして始まりました。デンソーでは数年前から、IT やソフトウェアなどを含めて扱う範囲が多岐に渡り、自動車1つをとっても社員1人1人が全ての製品の情報を把握することができなくなりました。会社としても規模が大きく縦割り化が進み、結果的に「隣の部門が何を作っているのか分からない」という状態になりました。
電気・電子の知識は、枯れた技術と言われていながら、社会の中ではアナログとデジタルを結ぶ一番大切な要素が含まれている技術領域です。基本基礎でありながら、デンソー社内でも人によってその能力がバラバラな状態でした。自分が開発している分野には詳しくなるものの、他の部品は理解できなかったのです。
その状態をもどかしく感じた加藤さんが、全てとは言えなくても電気・電子の知識や応用能力、エンジニアだからわかるノウハウを幅広く知っていてほしいという想いでE検定を開発しました。実際にやってみると非常に意義があり、デンソー社内だけで使っているのはもったいないということで、2014年頃からデンソー社員以外の皆様も受験できるように一般公開となりました。
(三浦)
近年「デジタルだから誤動作しないでしょ?」や「デジタルの1と0の世界だから誤認識もしないでしょ?」というようなことを、よく耳にします。これは大きな間違いで、デジタルも中身はアナログ信号です。デジタル回路では、電圧が変化することで1と0を判定しており、これをひたすら繰り返しています。
このような信号がどのように伝わっていくのか、また信号が伝わる過程でどのようなことが起きるのかを知ることが電気・電子の分野で学ぶべき基本です。
回路には誤作動を起こすリスクがついて回ります。それは回路図を眺めるだけでは分かりません。シミュレーターである程度解析することもできますが、動作をさせた時に初めて発現するリスクがあります。体系的に基礎を学ぶことでリスクを把握し、その要因をきちんと理解することでトラブルが起きた際にその原因に推測がつくようになります。デジタルの1と0の世界だけで考えているとわからないこと、それこそがE検定で身につけてほしいスキル・ノウハウの1つです。
自分の手を動かして学び、他者から真似ぶことでノウハウを磨く
――電気・電子の知識を超えて、スキルやノウハウとして身につけるためには、どのように学んでいくと良いでしょうか。
(三浦)
学び方は十人十色、こうすれば良いという正解はなかなかないと思うので、あくまでも私の考えですが、やはり基本が大事です。
最近の電子回路は高機能なICを買ってきて、組み合わせて目的を実現するという形にどんどんシフトしています。以前は、トランジスタ1個1個を全て自分で組み上げる、ディスクリート構成で目的の回路を組み上げていましたが、こうしたことは滅多に行わなくなってきています。今世の中にどんな部品が出ているのかといった情報を収集する能力は、自分の目的を達成する回路をどう最短で実現するのかを考えるうえで重要ですね。
様々な部品を組み合わせる時には、多様な知識やノウハウが必要です。例えば、基本中の基本ですが信号をどう受け渡すかといったものがあります。こうした知識は、実際に自分で組んだ回路の信号を自分の目で観察して理解することで知識からスキルになります。
また、人の作った回路を観察することも大切です。私が昔、よくやっていたのが他社の製品を分解して中を観察することです。部品の配置方法や繋ぎ方の勉強になります。最近ですと発熱への対処も重要です。熱を逃がすのか、あるいは熱がそもそも発生しないようにどのように設計するのかというのもとても大事なことなのですが、先輩の作った回路や他社さんの製品を覗くことでどのような工夫をしているのか、垣間見えることがよくあります。
自分で覗かなくても、例えば日経エレクトロニクス誌などではよく「分解記事」を載せています。そういった記事を眺めることも、とても面白く勉強になりますので、若いエンジニアの方にはお勧めしたいです。
今後も注目度の高いノウハウを、「自分のもの」にして欲しい
――最後に、この記事を読んでE検定を知ってくださった皆様へメッセージをお願いします。
(近森)
今の時代、ものづくりは、もはやローカルな活動ではありません。国内メーカーからの受託開発であっても、結果的に、自分の作った製品や開発したものが全世界で使われています。
確かに今、ソフトウェアの世界が流行っていて、データ分析エンジニアやAIアナリストなどキラキラしたように見えますが、それらをスマートフォンやパソコン、家電などの物理的な世界を繋ぐには、電気・電子のエンジニアがいないと、専門知識がないと成り立ちません。
だからこそ今後、電気・電子のエンジニアにとって非常に重要なステージに入ってくると考えています。電気・電子のエンジニアとして仕事をしている、もしくはこれから働いてキャリアを作りたいと考えている方が、スキルアップのために勉強したり自己研鑽したりするのは自然なことです。しかし、途中で「本当にこれでいいのかな」と不安になることがあると思います。そんな時に、このE検定を1つの診断指標として使っていただき、自分自身を分析して知ることに利用してほしいと思います。
(三浦)
E検定のテキストの書いてあることは、基本的なことがほとんどですが、学校で習わないことがたくさん書いてあります。学校で勉強することはもちろん基本ですが、改めてE検定のテキストでぜひ一通りでも眺めていただきたいです。特に新人のうち、経験の少ないうちに基本をしっかり勉強していただきたいなと思います。現場は製品にどう応用するかの世界なので、その都度部品、回路要素、自分のスキルが役に立つ・立たない、かの取捨選択が必要になります。その判断に使える知識を身につけていただきたいなという想いです。
また、実際に製品化する回路を設計する際には、電子回路としてさきほど言及したリスクを考える必要があります。故障のリスク、誤動作のリスク、利用者に対してケガをさせてしまうリスクなど様々なものがありますが、これらへ対処する考え方も、E検定のテキストの中で散りばめてあります。しっかり読み込んでいただいて、現場で仕事をしている中で「勉強したのはこれだったんだ」とつながる瞬間が出てくるようになっていただけたら、私としては非常に嬉しいです。
最後に
今回は、E検定を主催する電気・電子系技術者育成協議会事務局長の近森様と、講師の三浦様にお話を伺いました。電気・電子分野は、ソフトウェアが発達した今日でもハードウェアを下支えする重要なノウハウです。電気・電子エンジニアとして働く方や、これから業界へ足を踏み入れようと考えている方は、ぜひE検定を受験されてみてはいかがでしょうか。