埼玉県小川町にあるセキネシール工業株式会社。小川町で1300年以上の歴史がある和紙の製法「紙すき」を軸に、江戸時代末期から事業を営んできました。200年以上の歴史を持つ企業が、2024年1月、次なる後継者へとバトンが渡されました。
今回は、2023年には第4回アトツギ甲子園に出場し、応募者200人以上の中から15名しか選ばれないファイナリストに選出されるなど、今業界で注目を集めている関根俊直氏にお話を伺いました。
関根 俊直 / Toshinao Sekine
セキネシール工業株式会社
代表取締役社長
埼玉県比企郡小川町で生まれ。
大学卒業後、自動車部品製造大手企業に入社。5年間勤務したのち、2015年に採用支援会社大手に転職。採用コンサルや社内の中途採用を担当したのち、2020年に家業であるセキネシール工業株式会社に入社。
営業、人事、デジタル推進などを担当後、2024年1月より現職。
歴史ある「紙すき」の技術を生かしたシェアNo.1部品メーカー
ーーはじめに御社について教えてください。
セキネシール工業株式会社は、50人ぐらいで主にガスケット材を生産している会社です。ガスケットは、いわゆるシール部品というもので、部品と部品の間に挟むことで気体や流体の漏れを防ぐものです。
本社がある埼玉県小川町は、もともと 1300 年の歴史を持つ和紙(紙すき)で有名な町です。それを私の先祖が江戸時代の末期から作り始めたのですが、私の祖父の代で「和紙には将来性がない」というところから事業転換しました。 和紙の製法を生かし、パッキン材を作り始めたのがスタートになり、事業としては約 80 年ガスケット材料を作っています。この製法でガスケット材を作っている企業の中では、国内でも3社ほどしかなく、オイルシートとビーターシートという製品においては国内シェアNo.1を獲得しています。
時代の変化に適応できる会社であるための挑戦
ーー今一番力を入れている取り組みやその背景を教えてください。
力を入れていることは2つあります。
1つはガスケット材料に変わるような材料の開発、販売です。 具体的には、EVやハイブリッドなどの電動自動車に使われる材料の開発です。自動車業界では、いかにしてCO2を削減していくかという流れの中で、今後エンジンが搭載されない自動車が増えていく可能性が高いと言われています。
我々の製品は主に自動車のエンジンに使われており、この先の市場の縮小が見えているので、会社を存続させるために新規事業を創る必要があります。電気自動車関連の材料開発は、6年ほど前にある取引先からEVで使用する材料を作って欲しいという引き合いがあった時から進めています。それ以外の材料開発にも、2年ほど前から力を入れ始めました。
2つ目は経営理念の見直しです。既存の経営理念は、約30年前に私の父が制定したものになります。しかし時代の変化もある中では、時代に即し、かつ浸透しやすく皆にとって身近に感じやすい経営理念が必要だと感じ、現在再策定のプロジェクトを走らせています。特に社訓(バリュー)においては、創業者が大事にしていた勇気・創造・誠実・融和をベースとしながらも、皆で大切にしたい価値観を更に盛り込んだものしたいと考えております。理念の再策定は年始から取り組み始め、半年を目安に取り組もうと予定しています。
応援してくれる人がいるなら、自分たちも挑戦してみよう
ーー今年も開催された、第4回アトツギ甲子園(*1)にも出場され、ファイナリストとなりました。出場を決めた想いについて教えてください。
出場した背景は、技術を持った会社がPR することってすごく大事だなという気持ちのようなものがあったからです。きっかけとして2つあります。
1つ目は、企業の後継者が集まるイベントに出た時に、とある著名人の方達が、今後日本が世界においてプレゼンスを発揮していく為にも、ディープテックの領域、つまり技術を持った製造業に注目をしている、それも後継者が鍵を握っているという話があったことです
2つ目は、一般社団法人ベンチャー型事業承継(*2)という団体があるのですが、その団体の代表理事の想いにあります。アトツギベンチャーを立ち上げた理由の一つに、もともと技術を持った製造業を応援したいという想いがあり、直接その想いに触れる機会があったからだそうです。
もともとはアトツギ甲子園に出場しても、「どうせBtoB領域の製造業は理解されない」「技術情報を公にすることで大手に競合認定されてしまう」と思っていました。でも、これだけ応援してくれる人がいるのだから挑戦をしようと思うようになり、自分が目立って会社の技術PRをすることが会社にとって良い、少しでも引き合いが増えてくれたらいいなと思い、出場を決意しました。
*1 アトツギ甲子園
中小企業庁が主催するビジネスピッチコンテスト。全国各地の中小企業・小規模事業者の後継者が、既存の経営資源を活かした新規事業アイデアを競っている。
2018年6月に設立され、「挑戦するアトツギが日本経済に地殻変動を起こすエコシステムを実現する」をビジョンに活動している団体。代表理事は山野千枝氏で、東京、大阪、福岡に拠点を持つ
地域と世界から認められる、誇りある会社を目指して
ーー今後の目標や、未来に向けての想いを教えてください。
目下はやはり新規事業をいかにして確立させるか、というところが大事になっていくと思っています。 先程申し上げた通り、ガスケットの材料の未来がどこまであるのか分からないので、そこを確立させるために頑張っていきたいと思っています。
経営理念の見直しについては、弊社の会社の存在価値として、特殊な紙をすく技術を以て液体・気体の漏れを防ぎ、車両の事故を未然に防ぐ「未来をすくう」存在だと考えています。また、私たちはずっと地域に根付いて取り組んでいますが、小川町は消滅可能性都市にも選ばれています。なので、私たちはそういった危機的な未来をすくうような存在であることを目標にしています。
ビジョンは、世界に誇れるような特殊な紙屋でありたいと思っています。弊社は技術を武器に事業転換もしているので、技術力はもちろん、日々の頑張りは本当に誇らしいものだと自負しています。例えば、今後の電気自動車に当たり前に弊社の材料が使われているとか、ロケットの材料や空飛ぶ車の材料に弊社のものが当たり前に使われている姿とか、働いているみんなが生き生きと仕事している姿とか。地域からも「すごい」と言われるような、そういう誇りある会社をみんなと一緒に作りたいです。
最後に
今回はセキネシール工業株式会社代表取締役の関根俊直氏にお話を伺いました。時代の変化に合わせ、自分たちも変化していこうとする姿勢が大変勉強になりました。
関根社長が登壇したアトツギ甲子園でのプレゼンテーションは、下記にてご覧いただけます。ぜひご覧ください。
会社概要
セキネシール工業株式会社
コーポレートサイト | http://sekineseal.co.jp/ |
代表者 | 関根 俊直 |
設立 | 1962年1月5日 |
資本金 | 3,036万円 |
本社 | 〒355-0323 埼玉県比企郡小川町下里1503 |
事業内容 | ガスケット材・断熱材・絶縁材の製造、販売 |