日本中小企業大賞2023「働き方改革賞」最優秀賞、埼玉DX大賞奨励賞を獲得するなど、積極的な攻めと守りのDXに挑戦し、業界から注目を集めている松本興産株式会社。同社ではDXに取り組むことで、大幅なコストの削減と新規事業の立ち上げに成功しています。
前回は製造部部長として、管理職の視点からDXに取り組む森沢氏にお話を伺いました。今回は、実際に現場社員として業務を行いながらアプリを開発する、島崎凛さんにお話を伺いました。
島崎 凛 / Rin Shimazaki
松本興産株式会社工場管理部 所属
埼玉県秩父市出身。 入社4年目。
IT系の専門学校在学中に見た求人票で同社を知り、距離的な通いやすさと面接で話しやすかったことが決め手となり、卒業後に入社。 現在は工場管理部で受注管理や生産計画の作成を行なっている。
得意を活かす人材配置
ーーはじめに、DXプロジェクトに取り組み始めたきっかけを教えてください。
弊社の取締役が、人件費が増加していることを問題視し、まずは検査員の検査記録を分析し改善をして欲しいと依頼しました。 当時、その検査記録用紙は手書きだったため、その集計自体に時間かかり分析がしにくい状況でした。 ここからDXプロジェクトが始まりました。
プロジェクト参加メンバーの選定は事前に受けた性格診断テストの結果を参考に選ばれました。アプリ開発に向いているのは、内面世界が豊かで、静かに独りでいることを好む性格でした。私はその性格に合致したため、「DXプロジェクトにぜひ(参加してみては)どうか」という話を受けて、参加させていただきました。
工場の課題を解決するアプリを複数開発
ーーDXの取り組みの中で、島崎さんが取り組まれてきたことを教えてください。
MicrosoftのPower Platformを活用して、検査記録用紙のデジタル化をしました。
はじめに、検査記録用紙を廃止し、Microsoft Formsを用いて、アンケート形式で入力可能なフォーマットを作りました。個人のスマホを使って検査記録を報告出来るようになりました。 しかし、入力出来る項目数の制限や、件数の上限、入力のしづらさなどFormsだけでは対応できない課題もありました。そこで、検査員がスマホでの入力に慣れた頃に、入力項目の多様化に向けて、Formsからアプリに切り替えました。
他には現在、受注アプリを作っています。これは、取引先から届く注文データを、クラウド上のデータベースに登録するというアプリです。まだ実装はできていないですが、受注アプリで登録した注文内容の進捗管理や、出荷指示を行うための出荷管理アプリも開発してきました。 これまで弊社で使用していた生産管理システムを廃止しようという動きがあり、この時に出荷の履歴や、月々の売上などのデータベースを完全に置き換えるため、受注アプリの開発を計画しました。
わからないことだらけのアプリ開発も「わかると楽しい」
ーーアプリを開発する過程で、楽しかったことや苦労したことを教えてください。
楽しかったことは、Power Appsの仕組みが分かるようになること、思い通りにアプリが動かせること、工夫次第でいろいろな機能持たせられることです。 例えばQRコードのスキャンや PDFを扱うこともできますし、他のパーツと連動する動きを作ることもできます。そういった、さまざまな機能を持たせられることが、使っていて楽しいです。
アプリはITコンサルの方に教えてもらいながら、開発したという経緯があります。最初はそのコンサルの方に見本のアプリを作成していただき、それを元に分からないところは調べながら開発していました。少しずつアプリを動かす仕組みを知り、どうつながっているのかがわかっていくのが楽しいと感じました。
しかし、アプリ開発を始めたての頃は、わからないことだらけでした。 関数やプロパティ、データソースなど一般的なプログラミングに通じるところはある程度わかりましたが、Power Apps独自の関数などがあり、そういったものは覚えるのが大変でした。また、アプリをリリースした後のエラーや不具合の解消は苦戦しました。開発の際、入念にテストしてエラーを潰しこんだつもりでも、実際に使っていただくと、想定と異なる動きをすることが多々あり、このような不具合への対応は、開発にかけた時間よりも多くの時間がかかりました。
DXプロジェクトやアプリ開発を、上司や会社全体が後押し
ーー日々の業務がある中、どのようにアプリ開発を勉強する時間を作りましたか?
どうしても片手間でできる作業ボリュームではなかったので、上司に許可を取り開発に専念できる期間を作っていただきました。アプリ開発を始めたての時は、勤務時間外ですが自宅でも半ば趣味のような感じで触っていました。
成功体験で得られた自信「苦手な自分でもできる」
ーーこのプロジェクトに参加した当時と今との心境の変化はありますか?
実は、ITの分野は学んでいた分野ではありますが、苦手に感じていた分野でもあります。 アプリ開発は、プログラムを組むために論理的な思考が必要なため、向き不向きというのがはっきり分かれる世界だと思っています。 学校で学んでいるときはそれらに対しての苦手意識があったので、プロジェクト参加時は少し身構えました。開発が始まった当時は、アプリ開発がどういうものなのかわからないこともありがむしゃらに励んでいました。プロジェクトが実際に成功してからは、検査記録アプリが外部で表彰されたこともあり、「苦手な自分でもアプリを完成させられるんだ」という自信がつきました。
今では改めて、DXプロジェクトに参加してよかったと感じています。 苦手意識が薄れていったのには、やはり成功体験を得られたことが 一番大きいと思います。 一般的なプログラミングと違い、ローコードなので素人でもわかりやすいような仕組みになっていたため、 簡単で成功体験を積みやすかったです。
人材育成で継続的にデジタル化に取り組める環境へ
ーー今後の目標を教えてください。
弊社では現在、Excelで管理している在庫管理がかなり課題になっています。数がどうしても合わなかったり間違っていたりなど、結構な頻度でズレが起こっています。これを棚卸アプリというのを使って簡単に、正確にできるアプリを今後作成できたらと思っています。
また、アプリを開発する人がどうしても少なくなってしまいます。 そのためアプリ開発のノウハウを社内で共有しているところですが、今後アプリ開発をしたいという人がいたら、そのお手伝いもできたらと思っています。
最後に
今回は現場社員として業務をしながらアプリ開発も行う、松本興産株式会社の島崎さんにお話を伺いました。IT経験がありつつも、アプリ開発は「苦手」と感じていたことに驚きましたが、さらにローコード開発での成功体験を通じて「自分でもできる」と思えるようになったお話が印象的でした。
IT未経験からでも短期間でアプリを開発できるようなれることが、ローコード開発のメリットです。ぜひ皆様も挑戦してみてはいかがでしょうか。