前回の記事では、リードタイムについて用語解説を中心に説明してきました。

リードタイムの製造業における位置づけや重要性について、解説させていただきました。

今回は、一部前回の記事と重複する内容もありますが、より経営に紐づけて、リードタイムの短縮について解説していきます。

リードタイムを短縮することで、業績にどのような影響が出るのか、リードタイム短縮のメリットやデメリット、どのようにして短縮するのか、気を付けたい点と方法について見ていきましょう。

リードタイム短縮による業績への影響

リードタイムは製品の発注を受けてから、納品されるまでの期間だと、前回ご説明してきました。

リードタイムを短縮できると、業績にどのような影響が出るのでしょうか。

ビジネスがグローバル化し、デジタル化が加速する中、あらゆる分野でスピードが求められています。

製品の発注から納品までの期間が短くなれば、業務効率が上がるとともに取引先や顧客側からは喜ばれます。

同業他社が多いケースや競争相手が多いケースなら、より早く納品してくれる業者が選ばれることが多いです。

逆にリードタイムを短縮することで、それを武器にし、他社からの乗り換えも期待できます。

どんどん出荷できるようになれば、短期間でより多くの注文を受けて、より多くの売上を上げられるようになり、業績アップに作用します。

リードタイム短縮とは利益を伸ばすこと

リードタイム短縮は現場から見ると、業務の効率化や生産体制や納品までの体制の強化が求められることであり、取引先から見ればスピードアップによる業務効率の改善や顧客満足度アップにつながるものです。

一方、経営側としてマネジメント全体で見る場合には、リードタイム短縮とは利益を伸ばすことにほかなりません。

リードタイム短縮は受注から生産、納品までの期間をスピードアップさせることで、業務の無駄をなくして効率化を図り、在庫の積み上げによる過剰在庫を抱えるのを防ぎながら、利益を伸ばしていくために役立つものです。

リードタイム短縮で気を付けるべきポイント

リードタイム短縮を行うにあたっては、その必要性を吟味し、何が問題で何を解決するために、どのような目的でリードタイム短縮を図るべきなのかをしっかり検討することが大切です。

たとえば、これまで受注生産オンリーで時間がかかっても、丁寧で高品質な製品の納品で信頼されていた場合、いきなりリードタイムを短縮すると言われても、大丈夫なのかと驚かれる場合や今まで時間がかかったのはどうしてかと疑問を持たれ、信頼を失いかねません。

現在の取引先に対しては、生産体制が増強できたことや技術が上がったこと、効率性が上がったことなどを説明して理解を得るとともに、これまで受注をやむなく断ってきた新規顧客の受注を増やすことで、利益アップを目指す必要があります。

また、現在の現場体制を見直すことなく、ただリードタイム短縮を求めても業績アップにはつながりません。

現状で目一杯の状況でスピードアップを求めれば、製造上の事故やトラブルの発生をはじめ、品質基準を欠く粗悪品の増大、数量不足や商品の取り違えなど受注ミスや納品ミスなどが起こります。

ミスやトラブルによる損失が出るのはもとより、取引先が離れてしまい、利益アップどころか、利益ダウンや損失につながるおそれがあります。

・ニーズと目的を明確化する

取引先のニーズや潜在需要を分析し、リードタイム短縮のニーズがあるかを分析することが必要です。

また、リードタイム短縮を図ることで、自社にもたらされる利益やメリットを分析し、何を目的に、どんな目標のもとでリードタイム短縮を図るのかを明確にすることが大切です。

・現場の体制を整える

粗悪品の増加や納品ミスなどを防ぐためにも、リードタイム短縮に向けた現場の体制を整えなくてはなりません。

現場の体制を整えることなく、見切り発車しても、かえって損失が生じてしまいます。

無駄な工程はないか、人員の過不足はないか、適材適所で配置されているかをはじめ、設備の更新やオートメーション化などによる業務効率アップが図れるかの検討が必要です。

現場レベルでリードタイム短縮に向けた課題の明確化と対策の検討、取組が積極的に行われない限り、利益を伸ばすリードタイム短縮は実現できません。

・適切な在庫管理

在庫はなるべく抱えないのが良いと、在庫を減らす方向で動きすぎるのも、機会損失につながることがあるので注意が必要です。

現状の常連客のニーズにはスピードアップで応えられても、急な受注増には対応しにくくなります。

製品への需要が一気に増し、受注が立て込んだ際に受けることができなければ、大きな機会損失につながりかねません。

また、製造設備のトラブルや災害の発生で生産が停止した時に在庫がないと、受注分にも対応できず、収入が入ってこなくなるおそれがあります。

急な受注増や生産停止などのリスクに備え、在庫を持つことも必要です。

将来的な需要の高まりや景気動向、災害などを含め、さまざまなリスク予想のもとで、適切に在庫を維持、管理するように気を付けましょう。

リードタイム短縮のメリットとデメリット

では、リードタイム短縮によるメリット、デメリットをそれぞれ見ていきましょう。

・リードタイム短縮のメリット

リードタイム短縮のメリットとして、業務効率が高まり、人件費の削減や在庫減少による管理コストの削減が図られ、より多くの受注に応えられるようになり、売上がアップすることが挙げられます。

スピード納品ができるようになることで、取引先の増大や注文数の増大、注文サイクル数の増加なども期待でき、利益アップにつなげることが可能です。

迅速なサービス提供につながることで売上アップを見込めることです。

・リードタイム短縮のデメリット

リードタイム短縮のデメリットとして、十分な体制を整備せずにスタートさせることで、ミスや作業工程の手抜きが起きて品質が低下することや業務が忙しくなりすぎ、スタッフが疲弊する、不満が募ってモチベーションが下がる、離職する、製造上の事故やメンタルヘルスを病んで休職するなど、組織力の低下も心配されます。

また、適切な在庫管理を行わず、在庫を減らしすぎた結果、急な需要増や突然のトラブルで生産ができなくなった場合に売る製品がなくなるリスクも発生しかねません。

大規模停電や大型台風や地震などの災害による操業停止、世界的な災害や原材料の高騰や部品不足で減産を迫られるなどした場合に、企業の収入が途絶えるリスクは回避しなくてはなりません。

リードタイム短縮の方法を工程ごとに解説

リードタイム短縮の方法を工程ごとに見ていきましょう。

リードタイムには受注から生産、納品といった工程のほか、製品の開発も含まれる場合もあります。

それぞれについて見ていきます。

・開発リードタイムの短縮方法

パソコンやスマートフォンといったデジタル家電をはじめ、製品のライフサイクルが短い場合には、新商品開発のスピードアップも必要です。

市場のニーズや顧客のニーズをいかに素早くキャッチアップして企画や設計、開発に活かすか、マーケティング部門と開発部門の連携強化や製品開発に至るまでの承認プロセスの削減、検討のスピード化、試作や試験、検証の効率化なども求められます。

・生産リードタイムの短縮方法

リードタイム短縮の中でも、最も核となるのが生産リードタイムの短縮です。

リードタイム短縮によって利益アップを図るには、生産体制の見直しや強化は欠かせません。

必要に応じて人材を増員する、適材適所で再配置を行うほか、オートメーション化や業務効率のアップで不要な人材を削減する方法もあります。

工程の見直しにより、不要な工程を省く、生産設備を最新のものに更新する、製造上のミスや事故、不良品発生を抑えるための対策を講じることも大切です。

・調達リードタイムの短縮方法

リードタイム短縮による、納品までのスピードアップが取引先に喜ばれるのと同様、生産工程のスピード化を図っていくうえで、生産に必要な原材料や部品の供給が滞っていては、意味がありません。

いかに効率良く、従来より多くの製品をより短期で製造できる体制を整えても、そのための原材料や部品が入ってこないのでは意味がないからです。

原材料や部品の発注タイミングの見直し、調達先の変更、調達先の複数化を図ってリスク分散を図る、輸入品から国内品や地域で調達できる原材料や部品へのシフト、自社で部品も作るなどの内製化も一つの方法です。

・受注リードタイムの短縮方法

注文を受けてから生産現場に製造や納品の指示を与える時間も、短縮することが可能です。

これまで紙の伝票や電話、FAXによる受注でアナログ作業である場合やメールなどでの依頼をシステムへ転記入力していた場合、時間のロスが発生しています。

オンラインやクラウドシステムを導入して、発注のスムーズ化や受注管理のスピードアップを図れれば、生産に入るタイミングを短縮できます。

・検品・出荷・配送の短縮方法

検品体制の強化のために人材を増やす、自動チェックができる機械を導入する、出荷ミスが起きないよう、商品や数量のダブルチェック体制のとスピードアップ、ミスが起きない倉庫におけるピッキングシステムの構築や在庫のレイアウト変更を行うことも必要です。

出荷のタイミングを24時間体制にする、配送業者を見直す、共同配送にシフトする、自社配送に見直すなど、製品の種類や状況に応じた体制の変更を考えましょう。

まとめ

リードタイムの短縮は利益の向上に貢献する一方で、無理なリードタイムの短縮は在庫や品質管理に影響を与え、かえって信頼失墜や機会損失につながりかねません。

経営側から一方的にリードタイム短縮による利益改善を現場に押しつけるのではなく、現場との対話を大切にしながら、リードタイム短縮の施策を実行していくことが大切です。