デジタルツインとは
近年、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が浸透してきました。製造業におけるDXとは、デジタル技術とデータを活用して企業がビジネスプロセスを変革することを指します。DXに取り組むためAIやIoTの普及が進んでいますが、そのなかで注目されているのがデジタルツインです。
物理空間を仮想空間に再現
デジタルツインとは、そのまま訳すと「デジタルの双子」となります。物理的な空間(フィジカル)にある設備や機器をIoTといった技術で情報を収集し、仮想空間(サイバー)に再現するという概念です。
デジタルツインが注目されるようになったのは、IoTや3Dスキャナーといった技術の普及が影響しています。IoTにより、機器や設備に取り付けられたセンサからデータを取得でき、デジタル空間に再現することが可能となりました。
例えば、3Dスキャナーがあれば図面のない生産設備や工場の寸法も簡単に読み取ることができ、現実世界にある情報をデータ化できます。
デジタル空間にコピー環境を再現
つまりデジタルツインとは、リアルな生産設備やセンサからの情報をもとに、デジタル空間にコピー環境を再現することです。
その目的は、デジタル空間にある現実さながらの工場でシミュレーションを行い、そこから得られた検証結果をリアルな生産設備や人に対してリアルタイムにフィードバックをして最適な生産を目指すことです。
デジタルツインを活用すれば、デジタル空間で新製品の設計をしたり、工場運営をシミュレーションすることで、需要の変動に応じて生産活動を最適化したりできます。また、製造工程をシミュレーションすることで、将来の設備の故障などを予測できるため計画的なメンテナンスを施せます。
とは言っても、中小企業の多くは、いきなりデジタルツインを用いて製品設計から生産体制までを変革することは難しいでしょう。
デジタルツインの第一歩は設備の配置や能力、実際の作業工程などをデジタル空間に取り込んでシミュレーションすることです。
例えば、「人の動きにムダがあるようなら最短のルートを見つける」といったようなことから、デジタルツインを活用していきます。これなら大規模な設備投資をすることなく、いま現在の工場を効率化できます。
メリット
ではデジタルツインの導入により製造業には具体的にどんなメリットがあるのでしょうか。製品開発・保守・サービスの3つの側面から紹介します。
製品開発
製品開発においては、製品の試作品をデジタル上で作ることができるため物理的なコストを抑えることが可能です。
さらに現実世界で使用されている製品からデータを収集でき、よりニーズにマッチした製品開発や品質改善が期待できます。
また、実際の生産体制と同じ環境で試作のシミュレーションをすれば、製造する前からラインでのトラブルや製品の故障を予測できます。
保守
製造ラインを立ち上げ後の保守では、トラブルが発生した場合の原因究明を容易にできるというメリットがあります。これまでは設備にトラブルがあれば、担当者が現場に呼び出されて原因究明に取りかかるため、時間を要することも珍しくありませんでした。
しかし、デジタルツインでは仮想空間のモデルを活用し、複数の故障パターンをシミュレーションしています。その動作結果から障害を切り分けて、根本原因を特定することができます。
また、将来的におきる故障やエラーも予測できるため、予防保守が可能です。
顧客サービス
出荷後の製品に取り付けたセンサから得た使用状況と、デジタルツインにある仮想製品とを連携させれば、部品の摩耗や劣化の程度からあとどのぐらいで故障が起きそうかという予測が立てられます。
故障が起きる前に適切なメンテナンスができれば、顧客の業務を停滞させることがなく、顧客満足度の向上に期待が持てます。
また、センサから得た顧客の利用シーンをデータとして分析することで、より顧客のニーズに合わせた製品開発や提案も可能です。
活用事例
さて、ここからはデジタルツインが実際にどう活用されているかの事例を紹介します。すでに世界中でデジタルツインを活用した革新的な取り組みが始まっています。
設計
欧州最大級の独立系石油事業者であるAker BPは、2020年からCO2排出量の削減を目指しています。その一環としてAker BPは、ノルウェー海のスカルフ油田でのCO2排出量削減に取り組みました。
スカルフ油田のFPSO(浮体式生産貯蔵積出設備)は4基のガスタービンを搭載していますが、代わりに蒸気タービンを導入することでCO2排出量を削減できます。
そこで、Cognite社の運用保守アプリケーションであるInFieldを使用して、3Dモデル化したFPSOをレビューし、蒸気タービンをどう配置するか検証しました。
また、すべての関係者が3Dモデルにアクセスできることで海外出張の必要性をなくし、チーム間の連携を強めることに成功しています。
デジタルツインを用いた検証により、Aker BPは2025年までにCO2排出量を年間10万トン削減できることが分かりました。
製造
カラーフィルター・メーカーである中国の上海儀電(INESA)では、工場の設備や機器をデータ化してデジタルツインを実現しています。
IoTで収集したデータは富士通の「インテリジェントダッシュボード」というシステムにより、リアルタイムに表示ができるため生産ラインや各機器のエネルギー消費量を細かく監視できるようになっています。
そのため、現場のスタッフは広い工場内を歩き回ることなく全体を可視化でき、異常個所の特定と問題の対処をスピーディにできるようになりました。
保守・サービス
航空機エンジンを製造するGE社は、自社のエンジンを納品後もデジタルツインで監視しています。飛行中のエンジンの稼働状況はもちろん、環境温度と粉塵レベルまでデータとして収集することで、適切な検査時期を知ることができるのです。
エンジンのダウンタイムを短縮することは、顧客にとっては予期せぬ修理というリスクを最小化でき、GEにとってはサービス契約の収益を拡大させることにつながります。
シミュレーションとの違い
先述したようにデジタルツインは仮想空間においてシミュレーションを行いますが、従来のシミュレーションとは大幅に異なります。
高度なシミュレーション
いままでのシミュレーションでは、工程の一部分を切り取っただけだったり、実際に生産ラインに落とし込むと設計段階では分からない問題も出てきたりしました。
しかし、デジタルツインは仮想空間の現実さながらの環境で、トライアンドエラーを繰り返します。この高度なシミュレーションにより、設計段階で理想的な仕様に近づけることができます。
エラー原因の特定
また、実際に動いている製造ラインと同じ状況が仮想空間にあるため、エラー原因の特定も容易です。
デジタルツインにおいて製造工程にエラーが生じた場合、部品に欠陥があったのか、設備の消耗や故障によるエラーかなど、原因究明にかかる時間が少ないのが特徴です。
まとめ
製造業のDXにおいてデジタルツインは注目されていますが、発展途上の技術でもあるためこれからもその動向に注視することが大事です。近い将来、デジタルツインにより製造業のビジネスモデルが変化し、従来のモノを売るだけから「価値やサービス」を売る時代へと移り変わるでしょう。
ぜひ、自社でもデジタルツインの活用を検討してみてください。
(画像は写真ACより)
▼外部リンク
Cognite
https://www.cognite.com/