さて、今回の記事では「産業用ロボットは中小製造業の現場にも活用できるのか?」というテーマについて、導入時のメリットと、導入時に直面しやすい課題の両面に触れながら解説していこうと思います。
その前に「中小製造業でも産業用ロボットの導入は可能なのか?」
この質問はよく頂く質問なのですが、結論から申し上げますと、ほぼ導入することができます。
中にはやっぱりどう頑張っても導入できない、という企業もありますが、そういった企業は「完全に一品一様のワークしか扱っていない」「超精密加工が必要でものすごく細かいワークしかない」「産業用ロボットの精度がどうしても信じられない」といった特徴があります。
上記の条件に当てはまっていなければ、大体は産業用ロボットを入れることができます。
実際にロボット導入を行っている中小製造業の事例
車両用大型部品の溶接工程にロボット導入
株式会社ホーユーウエルディング
経済産業省・一般社団法人日本ロボット工業会「ロボット導入実証事業2016」(p.7)
従業員25名
・少量多品種の大型中厚板部品の溶接工程(クレーンによる反転が必要)にロボットにより自動化
・大量生産にしか向かないロボットのイメージを払拭、はじめてのロボット導入に至る
事業規模2,560万円
労働生産性1.16倍
精密油圧部品の研磨加工工程へのロボット導入
株式会社山田製作所
経済産業省・一般社団法人日本ロボット工業会「ロボット導入実証事業2017」(p.48)
従業員数30名
・工作機械(円筒研削盤)の研磨加工における、製品の着脱工程にロボットを導入
・人手に頼っていた多品種小ロット品の着脱作業のロボット化を実現
事業規模2,260万円
労働生産性16.6倍
熊野筆の技術を生かしたネイル筆製造工程のロボット化
株式会社北斗園
経済産業省・一般社団法人日本ロボット工業会「ロボット導入実証事業2018」(p.34)
従業員数22名
・熊野筆の生産における、計量から接着、バリ取りに至るまでの各工程を一体的にロボット化した
・穂先の形状作りなど熟練作業者が行う繊細かつ複雑な作業の自動化を実現
事業規模4,510万円
労働生産性30倍
中小製造業における産業用ロボット導入の考え方
さて、それではなぜ導入可能性が高い溶接ロボットにおいて、まだ普及が進んでいないのでしょうか。溶接に関わらず産業用ロボット全体に言えることですが、私の経験で行くと普及が進んでいない要因は下記です。
- 産業用ロボット導入の目的が十分理解されていないこと・明確になっていないこと(5割)
- 産業用ロボットの導入箇所が適切でないこと(2割)
- 産業用ロボットに関して新しい情報や正しい情報を得る機会が無いこと(2割)
- その他(1割)
順を追って説明します。
産業用ロボット導入の目的が十分理解されていないこと・明確になっていないこと(5割)
産業用ロボットと聞くと、多くの場合次のようなことを思い浮かべるのではないでしょうか?
「産業用ロボットとは、人を減らすために使うものだ」、「産業用ロボットは溶接工の仕事を奪うものだ」「産業用ロボットさえ入れればなんでもやってくれる」「産業用ロボットを入れることでサイクルタイムが早くなる」…
産業用ロボットはその特徴から、「人を減らすことができる」「自由度が高くなんでもやってくれる」「人が作業をするよりも早くなる」といった印象を持たれることが多いです。
間違いではないのですが、盲目的に上記の内容だけを真に受けてしまうと、既に産業用ロボット導入は失敗と考えた方が良いでしょう。
産業用ロボットにより「人を減らす」ことや「サイクルタイムを早めること」は目的の内の1つに他なりません。
他のところではあまり明確にされていないのですが、産業用ロボット導入の目的は下記8つに分類されます。
- 省人化・省力化
- サイクルタイムの短縮
- 溶接品質の向上
- 3K業務の改善
- 溶接工の技術継承
- 溶接工の高付加価値化
- 生産数の向上
- 外注業務の内製化
先に挙げているような、「人を減らすこと」や「サイクルタイムを早めること」は目的の一つではあるのですが、上記の8つの項目の中から今回自社で達成したい目的を選ぶことが重要となります。それぞれの目的の詳細についてはまた別記事にてご紹介しますが、上記の目的の中から自社が実現したいことを選ぶ必要があります。
この目的さえ決まれば、ロボット導入の実現度は大分高くなります。
産業用ロボットの導入箇所が適切でないこと(2割)
さて、産業用ロボットの目的を整理したら次は「どこに産業用ロボットを入れるか?」を考える必要があります。産業用ロボット導入を検討する際にまず洗い出すことは下記です。
全体の作業内容を洗い出す
例)搬入、切断加工、曲げ加工、、、
それぞれの作業の作業時間・人数を洗い出す
例)搬入3人・2時間/日、切断加工2人・8時間/日、曲げ加工4人【2人・8時間/日、2人・6時間/日】、、、
それぞれの作業の状況や課題を洗い出す
例)搬入作業では整理整頓がされておらず、材料を探すのに時間がかかる、
切断加工ではシャーリングに2人の人員が必要で常に2人係で作業をしている、
曲げ加工では材料の材質や厚みの違いから熟練が感覚で圧力調整している、、、
これらを整理し、上記で紹介したような目的を照らし合わせながら見ることで、大体どのあたりに産業用ロボットを導入できるかが見えてきます。
産業用ロボットに関して新しい情報や正しい情報を得る機会が無いこと(2割)
そして、最後に産業用ロボット導入をする上で障壁となるのが、産業用ロボットに関して正しい情報を得る機会が無いことです。
今でこそSIerという業種は名前が普及してきましたが、SIerと名乗りつつもまだロボット導入の経験を持っていない企業も見受けられます。
偶々優秀なSIerの方と繋がることができれば良いですが、参入したばかりのSIerでは試行錯誤しながら産業用ロボットを導入しますので、時間もかかりますし、下手するとプロジェクト自体が失敗に終わります。
ある程度産業用ロボット導入に慣れてきたうえで、参入したばかりのSIerの方と組んで進めていく分には勝手がわかるので問題ありませんが、お互い初めての状態で産業用ロボットを工程内に組み込む、というのは止めた方が良いでしょう。
溶接工程にロボットを入れていきたいのであれば溶接工程が得意なSIerを話をすること、組立工程にロボットを入れていきたいのであれば組立工程が得意なSIerに仕事を依頼するのが良いでしょう。
さあ、ここまでくれば後はアウトプットとして構築する産業用ロボットシステムの仕様内容の打合せになります。産業用ロボットの仕様決めで大切なことについてはまた別の記事でご紹介したいと思います。