2021年5月、長野県大町市にサントリー食品インターナショナルグループの最新工場「サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場(以下、信濃の森工場)」が稼働を開始し、今年5月には2つ目の生産ラインが稼働を始めました。同工場では、最先端のIoTを導入し、高度な生産管理システムと製品トレーサビリティーを中心としたDX(デジタルトランスフォーメーション)で注目を集めています。
また、サントリーグループは「水と生きる」をコーポレートメッセージに、「サントリー天然水の森」などの地域と協力した自然環境を守る活動でも注目度の高い企業です。そこで本記事では、同工場の取り組みから地域やお客様から愛される工場」になるためのヒントを探るべく、信濃の森工場の長谷川氏にお話を伺いました。
長谷川 浩幸 / Hiroyuki Hasegawa
サントリープロダクツ株式会社
サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場 総務部門
天然水への想いをブランドとして体現する工場を作る
――はじめに、この北アルプス信濃の森工場を開設された背景について教えてください。
「工場変革に取り組む」と言うと少し仰々しくなってしまいますが、天然水の工場は、我々が水源を大切にして育ててきているということを、工場としても天然水ブランドチームとしてもしっかり伝えていきたいというところが元々の思いにありました。
新たな工場の場所としてこの地を選んだ理由には、3,000メートル級の山々が並ぶ大きなアルプス一帯に、さまざまな動植物が生息している自然豊かな環境があります。北アルプスの大地には豊富な雨や雪が降り、降った雨や雪を山々がしっかりと受け止め、蓄えていくという環境があります。
もちろん我々はそこからさらに手を入れて、より良くしていくことを目指して取り組んでいます。もともとあった大自然の素晴らしさと水量を鑑み、このような活動に取り組むことでこの先長い時間をかけて清らかな天然水を作り続けていける場所ではないかと思って選びました。
50年先、100年先も今と変わらない美味しい天然水を
――北アルプス信濃の森工場を、「『サントリー天然水』の価値を体感できるブランド体験型施設」として開設された背景には、どのような思いがあったのでしょうか。
この北アルプス信濃の森工場には、「未来へ続く物語」というコンセプトがあります。工場見学などでお越しになるお客様だけではなく、働いている我々も、地元の方々も、このフィールド(工場)全体で普段何気なく触れている水を、改めて感じていただきたいなと思っています。
3つ感じてもらいたいことがあります。1つ目は、天然水の水源の心地良さです。2つ目は、発売から30年以上続くロングセラーブランドであるサントリー天然水のものづくりへの想いです。最後に、環境への対応や地域との共生、サステナブルというところへの取り組みも合わせて感じていただければと思っています。
今日も東京からお越しの方がいましたけれど、駐車場の車を見てみると松本ナンバーや長野ナンバーの車も目立ちます。そういうところから、地元の方、特に大町市の方々と一緒に、いつまでもこの環境を守ってやっていきたいという想いです。今だけではなく、50年先、100年先も今と同じ美味しい天然水を繋いでいき、未来の子どもたちにも美味しい天然水を飲んでいただきたいなという、そういう思いで設計してあります。
地域に愛される工場でありたい
――「地域に開かれた工場」として、地域とどのような関わり方をされているのでしょうか。
どうしてもぽつんと工場があると、地域の方は「何を作っているんだろう」という疑問や不安が生まれてしまいます。サントリーの工場は、地域に愛されて初めて成り立つと考えています。特に、普段皆さんに飲んでいただいている天然水を、この工場で作っているというのを感じていただきたい。そのためには、やっぱり地元の方々に愛されていなければならないとい考えています。
こうした想いからさまざまな取り組みを行なっています。例えば、今年の4月20〜21日にはこの工場を開放してフェスティバルを行いました。品質管理のツアーや森の体験ツアーなど、さまざまな企画を打ちまして、2日間で地元の方々延べ700人ほどにきていただきました。この工場を好きになってもらえるように、まず工場を知ってもらうことが一番ではないかと思い、実施いたしました。
また先日8月3日には、大町市のやまびこ祭りに私たちで売店と踊り連に参加させていただきました。売店では、我々サントリーグループのビールなどのお酒やソフトドリンク、おつまみ、かき氷を販売しました。ほぼ全て完売するほど好評でして、踊り連も大町市から「ちゃんと踊っていたで賞」という賞をいただきました。
その様子は、地元の大糸タイムスという新聞の中面一面に踊り連の写真が載りまして、従業員もみんなすごいなと喜んでくれています。大町の皆さんにとっても、大糸タイムスを見た方が「サントリー、こうやって一緒になってやってくれているんだな」ということを感じていただけたら嬉しいなと思っています。
はたらく環境も自然環境も、どちらにも配慮した工場へ
――「工場で働く人が、働きやすい環境にする工夫」も積極的にされていると伺いましたが、どのような工夫があるのでしょうか?
オフィス空間は、大自然の中で生かされているということが感じられるようになっています。他の工場にはなかなかない大きなガラスから、アルプスの大自然を望みます。オフィスは3つにエリア分けされており、集中して仕事をするエリア、会話しながら仕事をするエリア、そしてリラックスできるソファーエリアとなっています。製造の方々は普段神経を尖らして商品を見ているので、休憩中はゆったりできるようなオフィス家具を配置しています。そういった働き方に合わせた空間がいくつか用意されています。
――自然環境を守る取り組みとしてはどのような工夫があるのでしょうか?
この信濃の森工場は、サントリーで初めてのCO2排出実質ゼロの工場になっています。購入している電力は、基本的に再生可能エネルギーですし、工場の屋根には晴天時750kWの発電ができる太陽光パネルを設置しています。
熱はバイオマスボイラーを使用して作っています。大町市の森林組合さんから木質チップを購入させてもらい、それを燃料にしています。一部天然ガスを使用していますが、そこはカーボンクレジットを利用してオフセットしています。
また、「サントリー天然水の森 北アルプス」では、隣の安曇野公園の一部と大町市が持っている公園、合わせて441ヘクタール(東京ドーム約93個分)で、森林と生物多様性を保全・再生する活動を行い、地下水を育んでいます。現在「サントリー天然水の森」は全国で26カ所あり、国内工場で汲み上げる地下水量の2倍以上の水を育んでいます。
「水と生きる」を目指して
――最後に、今後北アルプス信濃の森工場が目指すビジョンについて教えてください。
自然を守る取り組みは、サントリーとしては、ボランティア活動ではなく、いわゆる基幹事業、1つの事業として取り組んでいます。サントリー製品のおいしさは、良質な地下水に支えられていますので、水をしっかり作っていくというのが一番大切にしていることです。「水と生きる」というコーポレートメッセージのもと、単に水を製造するだけではなく、水を守ることにも取り組んでいきます。
最後に
今回は「サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場」について、長谷川氏よりお話を伺いました。同工場では、規模の大きな取り組みから小さな1人1人の意識まで、さまざまな工夫によって取り組みが行われています。
社会の変化に伴って製造業の在り方も変化を迫られ、工場の在り方も変化していく時代ですが、本記事を通じて自社でもできるヒントを見つけていただけたら幸いです。