ビジネスを行うなかで万が一トラブルが発生してしまった時、トラブルの影響を最小限に抑えつつ、正しく対処するためにはどうすれば良いのでしょうか。選択肢の1つに「弁護士に依頼する」方法があります。しかし弁護士費用は高額になりやすく、どんな場面でも弁護士に依頼するという選択は取りづらいものです。
そこで今回は、企業法務に詳しい角元弁護士に「弁護士に依頼すべき4つの場面」をご紹介いただきました。

1.契約書を作成せずに取引をしたとき

契約書を作成せずに取引をしてトラブルになったとき

契約書を作成せずに取引をした場合、契約が成立したかどうかでトラブルが生じる場合があります。よくあるパターンとしては、製造側が製品を作ってしまった後に、購入側が契約は成立していなかったことを主張してお金を支払ってくれないという場合があります。

また、契約書がない状態で、製品に欠陥があった、輸送中に壊れてしまったなどのトラブルが生じた場合、どちらが責任を負うのかがはっきりしないことにより、相手との関係性が悪化したり、裁判になったりする可能性もあります。

このように、相手とのトラブルが生じた場合には、金額が大きいときや、今後の取引条件で考慮するといったことも含めたビジネス上の話合いによる解決ができないときには弁護士に相談をすると良いと思います。

トラブルを事前に防止するための契約書のひな形の作成

このようなトラブルを避けるため、簡単なものでもよいので、①取引内容(例:Aという製品を●個販売する)、②金額、③支払方法(一括、分割等)、④トラブルがあった場合の責任分担を中心とした契約書を作成することをおすすめします。

このとき、自身の会社で、弁護士に相談するなどして、自分にとって有利な内容の契約書のひな形を作成していれば、その内容をベースにトラブルが生じたときの交渉を行うことができますので、交渉を有利に進めることができる可能性があります。

2.共同開発や共同研究を持ちかけられたとき

知的財産権への注意

他の企業や大学などの研究機関と共同開発や共同研究を行う場合もあると思いますが、このような場合にも、契約書を作成することをおすすめします。そして、共同開発や共同研究の契約書を作成する場合には、特に知的財産権に関する規定に注意をする必要があります。

共同開発や共同研究が上手くいった場合、一定の成果として、技術や製品が開発されることになります。このような技術や製品は、知的財産権(特許権、著作権など)という権利によって守られることになり、知的財産権を持っている者は、勝手に自分の知的財産権を使用された場合には、使わないように請求したり、損害賠償を請求したりできる場合があります。

1人で技術や製品を開発した場合には、その作成者が知的財産権を取得することになりますが、誰かと共同で開発した場合には、元から持っていた技術や知的財産権がどの範囲までなのか、新しく開発した部分についてどちらが知的財産権を有することになるかをあらかじめ定めておくことで、後でどちらが知的財産権を有するかの争いを避けることができます。

秘密保持契約書の留意点

共同開発や共同研究を行う場合、いわゆる「共同開発契約書」のようなものではなく、開発が上手くいくのかを見極めるための情報交換なども含めて、短い「秘密保持契約書」を作成して実施する場合もあると思います。

秘密保持契約書お互いの技術などの自社独自の情報を、開発・共同研究・協業を検討する際に相手方に見せることになるものの、他社には秘密にしてほしいような情報について、お互いに秘密にすることを定めるもの
共同開発契約書どのような開発を実施するか等について具体的に定めるもの

一般的な「秘密保持契約」では、知的財産権に関する規定が定められないことも少なくないですが、共同開発・共同研究の場合には、知的財産権を誰が取得するのかを前もって決めておくことをおすすめします。

また、契約が終了した後も、①どちらが知的財産権を持つのか、②知的財産権を持たない相手に対しては、知的財産権を無償で利用させるのか、それとも一定のお金を支払って利用させるのかなどを定めておく必要があります。このような内容を定めておかなければ、開発や研究を行った成果が相手の元にすべていってしまい、自分の手元に残らないという可能性もあるので、ご注意ください。

この他にも、開発することだけが目的となってしまい、お互いの役割分担などについては定めていものの、開発の結果としてできた製品をどちらが製造し、どちらが販売するのか、収益はどのように分配するのかについての関係性が検討されていない場合も多く見られます。このような事項は、先に決めておくことが難しい場合が多いのですが、検討はしておくことをおすすめします。

3.契約関係でよく見られるトラブルについて

取引先から突然発注を打ち切られた場合

取引先から突然、長年続いてきた発注が打ち切られる場合もありますが、基本的には、「契約自由の原則」(=誰といつ取引をするのかは、当事者の自由であるという原則)があるため、発注が継続される権利があると主張することはできません。

しかし、中小企業が突然取引先から契約を打ち切られてしまい、収入源がなくなってしまうようなことを防ぐため、法律上、一定の場合には、契約の中止までに猶予期間を設けることが求められることや、突然契約を打ち切られた場合に損害賠償を請求できることがあります。
ただし、どの程度「配慮」するのかや、どの程度「猶予期間」を設ける必要があるのかについては、その事案によることになるため、弁護士に相談することをおすすめします

取引先が代金を支払ってくれない場合

取引先が代金を支払ってくれない場合、取引先は、民法上、いわゆる「履行遅滞」という状態にあり、契約違反になりますので、①契約を解除して、渡した製品を返してもらう、②損害賠償を請求するといった対応をすることが考えられます。

また、お互いに売買をしている場合などで、取引先に対してこちらから支払いを行う必要があるような場合には、お互いに支払うべきものを相殺し、回収したことと同じような状態とすることも可能となる場合があります。

最終的には、弁護士に依頼して、取引先に「内容証明通知」を送ってもらったり、取引先の預金口座を差し押さえたり(仮差押えという法的な手段となります。)、裁判を行ったりして代金を回収することが考えられ、弁護士に相談をすると良い場合があります。

製品に欠陥があると取引先や顧客からクレームを受けた場合

実際に製品に欠陥があった場合、製造側としては「製造物責任」を負う可能性があります。製造物責任とは、製造物に欠陥があったことで、他人の生命、身体または財産に損害を与えた場合、被害者が製造業者などに対して損害賠償を求めることができるという制度です。
そのため、自身が製造した製品で、誰かがけがをしてしまったような場合には、損害賠償を支払う必要があります。

なお、その欠陥の原因が、他の会社から購入した材料・部品にある場合、当該材料・部品メーカーも製造物責任を負うことになります。しかし、取引先や顧客としては、欠陥の原因や材料・部品の製造者が誰かが分からない場合が多いため、材料・部品の製造者ではなく、材料・部品を組み立てた製造者に損害賠償請求を行うことが多いため、まずは製造者が被害者に損害賠償を支払い、その後で材料・部品の製造者との間で、その責任の割合に従って損害賠償を分担するという流れになることが多いと思われます。

製造物責任が疑われる場合については、損害賠償の金額が多額になることも多いため、弁護士に相談をした方が良いと思います。

4.労務問題

従業員がけがをしてしまった場合、誰が治療費を支払うのか?

従業員が仕事中や通勤中にけがをしてしまった場合には、まず、労災保険による補償請求について協力をすることとなります。従業員の方が労災申請をするにあたって必要となる書類については、会社として協力をした方が従業員も安心をし、その後の関係性が円滑になる可能性があります。

労災であるかどうかについて従業員や会社側で見解が分かれた場合や、従業員が労災による給付以外に会社に対して損害賠償請求をする場合もあります。この場合、会社側は、適切に機材を保守・管理していなかった、従業員の安全に対する配慮が十分ではなかったなどの場合には責任を負う可能性もあります。そのため、従業員と労災であるかどうかの見解が分かれる場合、従業員が会社の態度に対して不満を持っている場合、事故の態様が重大で多額の損害賠償が予想される場合などには、弁護士に相談をしてみると良いと思われます。

退職する(した)従業員から金銭的請求が行われた場合

退職した従業員から、未払いの残業代やハラスメント行為があったなどとして慰謝料が請求されるということもままあります。会社に在職している期間は毎日顔を合わせるので請求がしづらかったものの、もう会社を辞めるので請求しても関係性に影響がないと考えて、退職する(した)従業員が会社に対して請求することは頻繁に行われています。

このように、退職する(した)従業員から請求があった場合には、法律上は、もし未払いの残業代が存在する場合、3年にさかのぼって残業代の請求を行うことができるとされています。また、労働基準法では、従業員が退職した場合に、従業員に支払わなければならないお金がある場合には、請求から7日以内に支払を実施する必要があるとされています(退職金については、別途支払時期を定めている場合、その時期に支払えばよいとされています)。

従業員から請求があった場合には、どの程度までが正当な請求であるのか、請求に応じないとどのようになるのかという疑問も生じると思いますので、そのような場合には、弁護士に相談すると良いと思います。

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