2024年1月24日、埼玉県さいたま市のさいたまスーパーアリーナで開催された「彩の国ビジネスアリーナ2024」にて第1回埼玉DX大賞の表彰式が行われた。埼玉県では、2021年より県内企業のDX推進を本格化させており、同取り組みの一環としてDX大賞が開催された。

 今回は、埼玉県がDX推進支援に取り組む背景や思い、現在の取り組みについて、埼玉県産業労働部産業支援課DX推進・事業者支援担当の磯英樹氏にお話を伺った。

埼玉県が進めるDX支援 

 私たちは、人口減少・超少子高齢社会の到来という待ったなしの課題に直面している。埼玉県でも今後人口減少が進むと予測されており、75歳以上の高齢者人口が全国で最も早いスピードで増加する見込みだ。

 このような社会的変化により大きな影響を受ける企業が、「デジタル技術を使って『今までにない新たな価値』を生み出し、ビジネスや組織、働き方など様々なことを『変革』させていくことが重要である」との考えから、2021年10月に埼玉県DX推進支援ネットワークを立ち上げた。同ネットワークは、国、県、市、経済団体、金融機関、支援機関の27団体で構成されている。構成機関が連携して一丸となり、県内中小企業のDX推進機運の醸成や、DXの支援事例を共有するなどしてノウハウの向上に取り組んでいる。

埼玉県DX推進支援ネットワーク(同ネットワークHPより)

 2022年度からは、同ネットワーク内にてDXに課題を持つ企業の無料相談窓口であるDXコンシェルジュを配置した。寄せられた相談をもとに、コンシェルジュが同ネットワークに登録する支援会社である埼玉DXパートナーとのマッチングを行っている。埼玉DXパートナーには、県内の中小企業がDXを進めるにあたってぶつかる課題に対し、解決策や支援方法を提案する全国のITベンダー、コンサルティング会社等が登録しており、2024年1月末時点で276社となっている。

 また、経営幹部層向けのDX推進人材育成講座も行っている。DXの推進には支援機関・支援会社だけではなく、「社内で旗振り役になっていただく方が重要」だ。こうした人材は、中小企業では基本的に経営幹部層が中心になるため、パートナー企業等と連携したセミナーを開催している。

埼玉DX大賞開催の背景 

 これらの県内中小企業に対するデジタル化・DX支援策を進める中で、「県内でも進んでDXに取り組んでいる中小企業が見られるようになり、優れたDX事例を表彰し、多くの企業に届けていくことで、県内中小企業のDXの底上げを図っていこう」という考えから、埼玉DX大賞が創設された。

 「今回表彰させていただいたような優れたDX事例を、埼玉県DX推進支援ネットワークの構成機関が一丸となって、それぞれの会員や関係先など多くの企業にお届けすることで、それを参考にしながら県内中小企業においてDXが加速するような流れを創っていきたい」という思いがあったという。

 DX大賞には県内企業から27件の応募があり、審査基準に沿って審査が行われた。審査委員長には埼玉大学大学院綿貫啓一教授が就任し、最優秀賞1社、優秀賞3社、奨励賞2社が選出された。2024年1月24日(水)に開催された表彰式では、受賞事業者が取り組み事例を発表した他、大野知事より表彰状及び副賞が授与された。受賞事業者については下記の通り。

【最優秀賞】 

スリーケ株式会社(埼玉県上尾市) 

自社の経営改善から新事業展開へ

【DXの効果】
集計作業の効率化等により1日あたりの工数を19.5時間削減、システム導入による人的ミスの排除 など

【取組の概要】
自分達でプログラムを学習し、自社の業態に沿った生産管理システムを0から構築した。自社開発のため、非常に柔軟な対応が可能で効果の大きいシステムを構築することができた。今後、他社様にもまるで自社開発しているようにシステムを構築できるサービスを展開する。

【優秀賞】 

日本メタルガスケット株式会社(埼玉県熊谷市) 

DX推進によるビジネスモデルの転換 量産から多品種中少量へ

【DXの効果】
売上利益18%増、短納期・低コスト化、労働生産性向上、競争力向上 など

【取組の概要】
生産管理システムとIoT機器を双方向連携することで、生産情報を作業者に提供すると共に、数量・時間・設備・人・在庫等の生産実績情報を設備出力とQRコードリーダやタッチパネルで収集した。その結果、効率的な生産を実現し、量産型から多品種中少量生産型へ事業転換を図った。

株式会社真工社(埼玉県戸田市) 

コロナ禍とサイバー攻撃からのGREAT RESET

【DXの効果】
フルタイム社員2名相当分の工数を削減、データのリアルタイムな集計、新規事業収益獲得 など

【取組の概要】
社外DX取組事例:AppSheet、スプレッドシート、LookerStudioを活用し、データを最適化。収支管理をデジタル&可視化し業務改革を実現。95%の紙を電子化、メール報告をファイル共有へ刷新。業務負荷とミスを削減し品質保証による営業力向上に貢献する。

田島石油株式会社(埼玉県狭山市) 

LPガス販売企業のDXへの挑戦

【DXの効果】
年間約500万円のコスト削減、データ蓄積による価格変動・プラン提案、不正使用やガス漏れの早期発見 など

【取組の概要】
業務計算などをコンピューターに置き換える電算化から始まり、業務をクラウド上で統合して活用することでDXを実施した。統合されたデータをクラウド上で管理することで、計画的なPDCAサイクルを構築し、情報システム経営を実現することができた。

【奨励賞】 

中原建設株式会社(埼玉県川口市) 

建設現場の効率化と若手が輝く職場へ

【DXの効果】
測量作業の時間・人員を50%削減、時間外労働時間26.7%削減、若手・女性技術者の活躍促進 など

【取組の概要】
エ事の施エプロセスで発生する複数の情報(データ)を3次元空間上で統合し一元管理する「3次元CIM統合モデル」により現場管理を行い、建設現場の効率化に成功した。これにより、経験の少ない若手技術者や女性が活躍できる職場とすることができた。

松本興産株式会社(埼玉県小鹿野町) 

田舎企業の一歩を、社会の希望にする

【DXの効果】
定型業務を68%削減、自動化による効率的な生産、他事業への展開 など

【取組の概要】
一般社員が作ったアプリで作業を効率化している。内製アプリで業務フローを管理し、定型業務を大幅に削減することに成功した。DXにより生産性向上、働き方改革など組織全体にポジティブな変革がもたらされている。

【参考】埼玉県DX推進支援ネットワークHP 受賞事業者の紹介

現状を踏まえた今後の展望 

 埼玉県は中小企業を中心に企業数が非常に多く、幅も広い状況にある。その中で、「デジタルをどのように活用していいかわからない」という企業に対しては、埼玉県DX推進支援ネットワークにより、地域の金融機関等と協力して働きかけることも重要な要素だとして取り組んでいる。

 一方で、デジタル活用をある程度検討している企業については、さらに飛躍するために、ITベンダー等とのマッチングサービスのような相談機能を活用してもらう取り組みを進めており、「それぞれの企業の課題やレベルに応じた支援」を行なってきた。

 今後について磯氏は、「県内の優れたDX事例を多くの中小企業の皆様に参考にしていただけるよう、更なる横展開に努めていきます。県内の中小企業の皆様に幅広く知っていただき、ご活用いただけるよう、我々も進めてまいりたい」と話している。

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