2024年は年始から石川能登半島を中心に大規模な地震に見舞われるなど、全国各地で災害級の出来事が頻発しています。また、南海トラフ地震や首都直下地震、さらには豪雨や台風など、日本では常に自然の脅威と隣り合わせています。こうした自然災害への備えは、個人や家族ではもちろんのこと、事業を営む経営者にとっても憂慮すべき危機の1つです。
そこで今回は、災害時に事業を継続させる計画「BCP」の策定から社内浸透を専門に支援している株式会社ソネリスの飯田社長に、中小企業が行うべきBCP対策の取り組み方を伺いました。
会社概要
株式会社ソネリス
コーポレートサイト | https://soneris.co.jp/ |
代表者 | 飯田 直宏 |
設立 | 2020年10月8日 |
資本金 | 1,000万円(資本準備金含む) |
本社 | 〒151-0053 東京都渋谷区代々木2-30-4 |
事業内容 | リスクマネジメントコンサルティング及び災害時の各種リソース調達・事業再開活動支援 |
代表取締役 飯田 直宏 / Naohiro Iida
早稲田大学商学部卒業。林業分野で起業し、株式会社アイリッジを経て、株式会社クラウドワークスへ参画。クラウドテック事業部にて、営業から事業のマネジメント等幅広い領域を担当。事業リスク調査対応、J-SOX対応や、事業全般のトラブル対応まで行う。その後投資先へ出向し、執行役員として事業全般を推進。2020年10月に株式会社ソネリスを創業し、代表取締役に就任。
社会的な責任の1つとして考えられる“BCP”
ーーはじめに 「BCP」とはそもそも何を指す言葉なのか、また注目されるようになった背景や重要性を教えてください。
BCP(Business Continuity Plan)すなわち事業継続計画とは、「大地震や、感染症、テロ、大事故、サプライチェーンの途絶など不測の事態が発生しても、重要な事業への影響を最小限に抑え、早期に事業再開するための計画」を指します。簡単に言うと、有事の際でも事業を止めず、すぐに再開できるようにしておくための計画のことです。人命の安全を確保することはもちろん、生産設備の停止や、原材料の調達不可、物流網の停止など事業継続が危ぶまれるときにBCPが重要です。
BCPが重要視されるようになった背景には、社会的責任の高まりがあると考えています。昨今、プライム上場企業において、コーポレート・ガバナンスコード(CGコード)内に自然災害への対応が明記されるようになってきています。そのため直接的な圧力として多いのが、顧客や取引先からアンケートなどによる確認が行われることです。特に半導体業界や自動車業界の場合、取引先から「BCP策定していますか?BCP策定しているだけではなく、訓練など浸透活動もしていますか?」との調査が行われることがあります。その時に答えられるかどうかは重要で、「答えられない=すぐ取引停止」とケースはまだ多くはないものの、BCPの策定・浸透を求める動きが拡大しているため、早期の準備がなければ取引先自体が縮小していくと考えられます。
自動車業界であれば、IATFの取得などの際にも「BCPをどのように整備しているか」も1つのポイントになります。取引先とのスムーズなやり取りの面でも、BCPの重要性が高まってきています。
BCPを難しく考える必要はない。「初動」を「しっかり」作る。
ーー中小企業では、BCPをどのように考えると良いでしょうか?
中小企業では、初動にフォーカスした分かりやすい最低限のマニュアルを整備できれば十分だと考えています。なぜ初動にフォーカスをするのかについては、災害が発生した場合に一番混乱が大きく、何をしたらいいのかが分からない状況であり、その後の対応にも後を引きかねない、重要なフェーズだからです。
初動フェーズでは、災害が発生してから48時間以内の間の対応をいかにスムーズに、確実に行えるかが重要です。そのため、自社が被災した場合に、どの範囲を、どの部署の、誰が、何をするのか、チェックリストのようなものを整備しておくと良いでしょう。
BCPというと、代替製造や代替調達といった他社を巻き込んだテーマが想起されやすいです。しかし、マニュアルをしっかり策定をしたとしても、環境変化が起きた際にまた全てのBCPを組み直すという必要が出てきてしまいます。毎年BCPにそれだけの工数をかけ続けられるかというと、それは非現実的です。BCPは難しいイメージがあり、かつ立派なマニュアルを作らなければいけないとの思い込みがあるかと思いますが、実はそうしない方が良いです。
実際に数十ページのマニュアルを長時間かけて作り上げただけの企業様では、その後うまくBCPが社内に浸透し、活用できているという企業様はほとんどありません。
簡単な「ワークショップ」を通して「チェックリスト」をつくる
ーーでは初動フェーズのチェックリストを作る際には、何から始めると良いでしょうか?
まずはワークショップや初動対応の訓練を行うことをお勧めしています。「今、地震が起きたらどうしますか?」というようなテーマで、実際に簡単なシミュレーション型の訓練を行います。これにより災害時に自社ですべきことをあぶり出すことができます。ワークショップを通して、すべきことを炙り出すだけではなく、そのすべきことが本当にできるのか、できないことは何か、何が今課題かというところまであぶり出すことができます。このように自社のやるべきことと課題を挙げ、テーブルに並べることができれば、自社のやるべきことをタイムラインとしてまとめたり、それを元にチェックリストを作ったりすることができます。
ワークショップが難しければ、関係者で「自社が有事の際に優先してしなければいけないことは何か」を一通り列挙し、それをチェックリストに落とし込むというやり方が良いのではと思います。
ーーワークショップや訓練は外部の専門家にお願いして行った方が良いのでしょうか?
もちろん外部の専門会社を活用いただいてもいいと思いますが、難しいものいきなりやる必要はなく、自社でできる範囲から始めると良いと思います。訓練というとすごく難しく、様々なシナリオを用意して準備してやらなくてはいけないというイメージもあるかもしれません。しかしそうした訓練ではなく、シンプルに「もし今首都直下地震が起きたら、あなたは何をすべきですか?」とケースを元に、紙に書いていただくというようなワークショップでもまずは十分です。
例えば営業部では「自分だったらまず安全確保して、すぐに顧客対応だ」とか、経理部では「まず安全確保と消火活動をして、銀行や通信システム、勘定系が動いているかどうかの確認をしよう」とか。製造部であれば「安全確保した後は、重要な設備に故障はないかどうかの確認だな」等。各自の立場・役割で自分がやるべきことがあぶり出されるので、そういったことを考えていただくワークショップだと、自社で負荷を抑えながら運営ができると思います。
既存のマニュアルを“BCMサイクル”で改善する
ーー実際にBCPの取り組みをされている企業さんの事例を教えてください。
2011年3月11日の東日本大震災を機に、自社でBCPマニュアルを策定されていた企業様がありました。同社は、関東に本社を置き、東北に重要な製造拠点を持つ、社員数150名前後の非鉄金属・同合金圧延業の会社です。
その企業様には当時3つの課題がありました。1つ目は、良くも悪くもマニュアルが散らかっており、有事の際に使いづらい課題です。2つ目は優先順位的に重要だけどなかなか手をつけられない課題です。 BCPは総務の方が行うケースが8割ほどですが、既存業務に追われて対応できていませんでした。3つ目は、「マニュアルを作ってもどうせ形骸化するのではないか」との懸念から、取り組みづらいと思われていた点です。
これらの課題を解決するため、「BCMサイクルを一定期間かけて一緒に回す」取り組みをしました。BCMとは Business Continuity Management(事業継続マネジメント)の略称です。BCMでは、PDCAサイクルのように実行・維持・改善を繰り返す管理体制のことを意味しています。BCPマニュアルを作って終わりだと、その後のBCMサイクルの回し方がわからず、結局また形骸化してしまいます。そこで一緒に訓練を行い、その中で出てきた課題に対する対策をしながら、マニュアルの整備も進めていきました。
現在はこの取り組みがちょうど1周したところです。元々マニュアルは一応あったけどわかりづらい状況でしたが、外部の力を使って訓練を行うことでマニュアルの整理も完了し、BCMサイクルを回す知見も獲得したことで、自分たちで運営していくイメージもついたと思います。
BCPはマニュアルを作るだけでは不十分。
ーー最後に、飯田様が中小製造業に対してどのような支援が可能か教えてください。
BCPに取り組む目的は企業様によって様々です。それをお伺いしたうえで、その企業様にあったBCP・BCMの取り組みをご支援しています。BCPマニュアルの策定からより実効性によったBCPの策定も可能です。また、BCP対策の伴走支援も行っています。訓練などを通して課題を見つけ、それらを地道に対策してマニュアルを改善することを支援していますので、お気軽にご相談ください。
最後に
今回は、BCPの策定から実行・改善を伴走支援する、株式会社ソネリスの飯田社長にお話を伺いました。社会の変化に合わせ、”選ばれる企業”に変化するためにはBCPの策定とともに事業を継続できる環境を整える必要があります。BCPの策定や実行に関するお悩みがありましたら、ぜひ同社までご連絡ください。