2020年から2021年にかけ、半導体不足が深刻化しています。
半導体不足は、製造業を中心に幅広い分野で大きな影響を与えており、製品不足が生じています。
半導体不足がなぜ起きているのか、発生した理由を見ていきましょう。
半導体不足の大きな原因とは
世界的に深刻な半導体不足に陥った原因として考えられるのが、半導体に対する需要の急拡大とそれに対応する供給体制がひっ迫したことです。
需要と供給のバランスが崩れ、需要過剰となれば、半導体が不足するのはいわば当然のお話です。
では、なぜ半導体需要が急拡大しているのでしょうか。
また、なぜ供給体制が追いつ付かないのでしょうか。
その理由や背景を紐解いていきましょう。
・幅広い製品に必要となる半導体
近頃メディアを賑わせている半導体不足のニュースをきっかけに、半導体がいかにさまざまな製品に利用されているのかを知った方も多いかもしれません。
多くの方が、パソコンやスマートフォンに使われているだろうというイメージをお持ちでしょう。
ですが、それだけでなく、飛行機や自動車などの大型機械をはじめ、ガス給湯器や温水便座などの住宅設備、そのほか大小さまざまな家電製品にも利用されていることに気付かれたはずです。
各種の製品の製造に欠かせない部品である半導体が入ってこなければ、製品が製造できない、在庫が足りなくなる、販売できない、利用できないと川上から川下まで時間差で連鎖してしまうのです。
・需要の拡大
半導体不足のニュースが現在のように大きな注目を浴びるようになったのは、コロナ禍の影響もあります。
もっとも、新型コロナウイルスの発生と感染拡大が起こる前から、半導体の世界的な需要は拡大し続けていました。
パソコンやスマートフォンに加え、テレビなどの需要が増加し、ディスプレイ用の半導体であるディスプレイドライバーICと呼ばれるDDICの需要が増大したのです。
世界的なデジタル化の促進やスマートフォン市場の5G化による新しい端末の生産増大、テレビの大型化をはじめ、日本では地デジへの全面移行や4Kテレビの普及、東京オリンピックに向けた大型テレビへの需要拡大などで、テレビへの需要が高まりました。
そんな状況に、コロナショックが起こります。
コロナ感染が世界的に猛威を振るい始めると、半導体工場でもクラスターが発生し、感染拡大を怖れて工場の操業停止などが相次ぎ、製造できず、入荷待ちとなる状況が相次ぎました。
日本では半導体の多くを輸入に頼っていたため、スマホやパソコンの修理ができないと困る修理業者の嘆きが報道されるようになりました。
さらに、コロナの感染拡大を防ぐためにテレワークが導入されます。
すると、あらゆるサービスがオンライン化へとシフトしていくにつれ、パソコン需要が急速に拡大していったのです。
つまり、コロナ禍で半導体の製造や輸入にストップがかかっている中で、テレワークの急速な普及や巣ごもり需要の拡大で、パソコンに搭載されるパワーマネジメントICと呼ばれるPMICが供給不足、需要過剰に陥っていきました。
この混乱が起きていたのが2020年春頃のことですが、2020年9月以降になると、コロナショックで一時期落ち込んだ自動車市場が急速に回復します。
その結果、自動車の動作制御を担っている半導体であるマイクロコントローラーと呼ばれるMCUが不足するようになります。
それゆえ、2021年に入ると、自動車メーカー各社が操業停止を行い、減産を余儀なくされる状況に陥ったのです。
・供給体制のひっ迫
需要拡大の一方で、新型コロナウィルスの感染拡大により、半導体の製造工場においてクラスターが発生して工場が閉鎖されることや感染拡大を怖れた操業停止が起こりました。
さらに、各国の政策による外出規制や渡航規制などにより、供給体制や物流にも大きな影響が出ます。
工場の操業停止で供給が減ったうえ、コロナ感染拡大を防止するための各国の水際対策などに伴う物流の停滞で、半導体が手に入りにくくなり、供給体制もひっ迫していきました。
半導体工場における製造の問題
コロナ禍により、半導体不足の状態が世界的に露呈しましたが、新型コロナウイルスの感染拡大だけが影響を与えたわけではありません。
実は、半導体の供給体制には、もともと供給をひっ迫させる問題が潜んでいました。
・工場や設備の老朽化
供給をひっ迫させる原因となっていたのが、半導体工場の老朽化や設備の陳腐化です。
5Gスマホなど最先端の半導体は、12インチウエハー工場と呼ばれる設備を備えた、最先端の工場でないと、効率良く生産することができません。
ですが、現在の半導体の多くが、一世代前の半導体と言われる8インチウエハー工場で生産されているのです。
一世代前の半導体工場では、工場設備の老朽化も深刻化していました。
そこで、現在の需要に応えることができないと判断した各半導体メーカーは、コストのかかる古い設備の自社工場での製造をやめる決断をします。
その代わりとして、中国や東南アジア圏のファウンドリと呼ばれる、受託製造を行う工場へと自社製品の製造を委託するようになったのです。
かつては優れた半導体で名を馳せた日本の半導体メーカーも、国内製造から海外製造へとシフトが進んでいきました。
・ファウンドリへの注文殺到
自社製造から半導体製造のアウトソーシング化が加速したことで、世界の各メーカーからファウンドリへの注文が殺到します。
各ファウンドリでは、受注拡大を喜んでいる場合ではありませんでした。
なぜなら、需要増に追い付くだけの生産能力の拡張ができていなかったからです。
世界から急増し続ける注文に供給が追い付かない状況に陥りました。
さらに、そこへ新型コロナウイルスの発生によるコロナショックが起こり、パソコンなどの半導体を利用した製品の需要拡大が止まらず、工場内のクラスター発生で工場の製造がストップするなどして、供給体制は混乱を極めることになりました。
先進国と新興国の関係性
半導体の需要と供給のバランスが崩れていたところに、コロナショックが起こり、さらにそこに拍車をかけるのが、政治的な動きや経済政策の発動などの動きや世界各地で増えている大規模災害などです。
・アメリカの動き
2020年12月には中国を敵視するアメリカ政府が、中国のファウンドリ大手企業への事実上の禁輸制裁を発動します。
すると、アメリカ企業が中国から、韓国や台湾のファウンドリへ切り替え、注文が集中し、半導体不足が加速してしまったのです。
その状況に追い打ちをかけるように、2021年以降は自然災害が半導体生産に大きな影響をもたらしました。
2021年2月にはアメリカのテキサス州に史上まれに見る大寒波が押し寄せ、半導体工場が一時的に閉鎖に追いやられました。
同じ時期に、台湾では深刻な水不足が起こります。
半導体製造には実は大量の水を必要とするため、生産が厳しくなる事態に陥ったのです。
・日本の状況
日本では国内自動車メーカー最大のMCU調達先である福島県の工場が、2021年2月に発生した福島県沖地震により、安全確認やため、工場の操業が一時的に停止されます。
そのうえ、翌月には国内自動車メーカーにとって頼みの綱である同工場で火災が発生し、半導体の生産がストップしてしまったのです。
2021年の夏頃からは、パソコンや自動車などの分野だけでなく、住宅設備の供給にも影響を与えています。
半導体の輸入が停滞している影響で、ガス給湯器や温水洗浄便座をはじめ、食洗やコンロ・LED照明の在庫も切れる状況になっているのです。
トイレが壊れてもウォシュレットへの交換ができない、ガス給湯器が壊れても、新しいものが入るまで半年待ちなどとなり、お風呂に入れない、お湯が使えない家庭も増えています。
銭湯に行く場合やヤカンでお湯を沸かしてしのぐ家庭さえ出ているほどです。
・国産化の動き
この状況を見据え、新興国のファウンドリに頼っていた先進国でも、再び、国産化を目指す動きや、輸出管理を強化する動きが見られます。
日本では経済産業省が主体となって、国内半導体製造の強化を目指す方針を打ち出しました。
かつては半導体の雄とされ、1988年には全世界の約50%の売上高シェアを誇った日本メーカーのシェアは、現在10%以下まで減少していますが、再び生産能力を取り戻せるのかが課題です。
まとめ
半導体不足は、世界的に見て製造業に大きな影響を与えています。
半導体市場が拡大する中で、コロナ禍や自然災害、政治的な動きも相まって、サプライチェーンの混乱が生じているのです。
この危機を乗り越えるためには、現状を理解し、自社の戦略やオペレーションを意思決定することが大切です。
(画像は写真ACより)