近年はあらゆる分野で変革を求められることが多くなってきました。
読者の中にも、経営成績が伸び悩み、力を入れて会社の風土を変えるべき時ではないかと考えている方もいるでしょう。
現状を否定し、変わろうとすることは大切なことです。一方で、変革することだけが目的になってはいけません。
変革はあくまで手段であって、その先に目的がなければいけないのです。
風土を変革する目的としてあげられることは、組織としてのケイパビリティを上げることでしょう。組織のケイパビリティとは、企業成長の原動力となる組織的な強みのことで、経営戦略を実行するために重要です。他社との差別化を図り、持続的に競争に勝つためにも、ケイパビリティを高めることが必要になります。
経済産業省では、不確実な世界における企業の経営戦略として、企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)という言葉で表現されています。
参考URL:第2節 不確実性の高まる世界の現状と競争力強化
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2020/honbun_html/honbun/101021_2.html
では、どうすればケイパビリティを高めることができるのでしょうか。
ヒントになるのはマッキンゼーが提唱した7Sという考え方です。
まずは7Sについて詳しく見ていき、それを踏まえたうえでどうすればケイパビリティを高められるかを探っていきましょう。
マッキンゼーの7Sとは?
マッキンゼー・アンド・カンパニーといえば、世界でも最大手のコンサルティングファームです。
この会社から派遣されたコンサルタントのアドバイスを受けつつ経営を行っている大手企業はたくさんいます。
マッキンゼーはコンサルタントを輩出するだけでなく、経営をするうえで参考になる概念もたくさん生み出しました。
その中の一つに7Sモデルというものがあります。
トム・ピーターズとロバート・ウォーターマンというマッキンゼー出身のコンサルタントが共著である「エクセレントカンパニー」の中で提唱しました、「エクセレントカンパニー」の原著は1982年出版と、30年近く前に書かれたものですが、現在もなお有効性が高いとされるモデルです。
このモデルの画期的なところは、組織の全体像と要素間の連携を捉えられるところでしょう。
7Sモデルでは組織は3つのハードのSと、4つのソフトのSで成り立っているとされています。
まずはそれぞれのSについて詳しく見ていきましょう。
3つのハードのS
7Sモデルにおいてはまず組織をハード面とソフト面にわけます。
組織の構造をなすとも言えるハード面はさらに3つに分かれますので、ここから一つひとつ詳しく説明していきましょう。
戦略(Strategy)
どんな会社を経営するにせよ、戦略を立てなければいけません。
今いる人材をどのように配置するか、現在の手掛けている事業をどのように競争率の高いものにしていくか、という計画こそ戦略にあたる部分です。
この戦略が欠けていれば企業経営は成り立たなくなるので、「エクセレントカンパニー」でもハードとして取り扱われています。
組織(Structure)
続いて重要になるのが組織の在り方です。
たとえば、会社に営業部と宣伝部、実務部があるとすればそれがそのまま組織になります。
自分の会社がどのような組織で成り立っているかを把握することは欠かせません。
システム(System)
ハード面の最後に来るのがシステムです。
現在の会社を成り立たせている仕組みはどのようになっているかを評価するために大切な指標と言えるでしょう。
たとえば、部内の昇進の評価基準はどうなっているか、給与はどのように繰りあげられるか、といったことはこのシステムで測られます。
4つのソフトのS
会社の構造をなす部分がハードと呼ばれる一方で、社員に関する部分はソフトと呼ばれます。
ソフト面は4つに分かれますので、これについても一つひとつ見ていきましょう。
価値観(Shared Value)
まずは英語に注目してほしいのですが、「エクセレントカンパニー」では価値観のことを「Shared Value」と呼んでいます。
これは直訳すれば共有された価値となるでしょう。
通常我々日本人が価値観と聞くと一人ひとりが持っている考え方をイメージしますが、「エクセレントカンパニー」においては価値観は共有されているものなのです。
会社経営を成り立たせるうえで一人ひとりの社員が同じ価値観を共有していなければ優秀な業績を出すことはできません。
スキル(Skill)
続いて取り上げられるのが社員それぞれが持っている能力です。
営業にせよ、技術開発にせよ、何をするにもスキルは欠かせません。
会社の業績を上げたいと思うのならば社員一人ひとりのスキル向上に取り組むべきでしょう。
人材(Staff)
スキルと似通う面もありますが、良い人材をいかに登用できるか、というのも会社経営ではなくてはならない視点です。
もちろんこれは経営者にも当てはまることでしょう。
いかに社員をマネジメントできるかが経営者には問われます。
スタイル(Style)
最後のSとして取り上げられるのがスタイルです。
最近は精神論を嫌う風潮があるので、社風や文化にこだわる企業は少なくなってきました。
しかし、自分はこの会社に所属しているのだ、という貴族心を社員に持たせるためにも社風は欠かせないものです。
ソフトSはすぐに変えられるがハードSはなかなか変わらない
さて、ここまで7Sについて説明してきましたが、これを踏まえてどのようにすればケイパビリティを高めることができるのでしょうか。
まず押さえておきたいのがソフトSの変化は目に見えてわかる一方で、ハードSの変化は時間がかかるということです。
これはそれぞれの項目を見れば明らかですが、たとえばハードSである戦略をすぐに変えるわけにはいきません。
極端な例にはなりますが、会社がそれまで打ち出してきた戦略を180°変えてしまったら別の会社になってしまうでしょう。
そのため、戦略面を変えようと思うのならば段階的に変えていくしかないのです。
一方で、たとえばソフトSである価値観をすぐに変えるのは十分に可能です。
まずは会社の中でアンケートを実施してみて、価値観が本当に共有されているかを確認しましょう。
そしてもし一致していない部分が見受けられるようならば、ミーティングを開くことで価値観の周知を徹底して行えば良いのです。
これはスタイルにも当てはまることでしょう。
人材に関しても今ある人材の底上げだけでなく、ヘッドハンティングなどを通して優秀な人材を数人集められれば一気に変革を起こすことができます。
目に見える変革を起こしたいのならば、ソフトSに着目しながら改革を断行しましょう。
まとめ~要素間の関係性にも目を向けよう~
とはいえ、自分の会社はここが弱点だからこう変えてみよう、と思うだけではいけません。
そもそも会社を構成する要素は、ほかの要素と絡み合って複雑に成り立っているものです。
たとえば、ソフトSであるスキルを例にとってみましょう。
社員の技術力がほかの会社に比べて足りないように見える、という時はどのように変革すれば良いでしょうか。
まずは技術研修などを行ったうえで個々人のスキル向上を促せば良い、と考えた人もいるかもしれません。
しかし、それだけではまだ不十分です。
そもそも社員がスキルを獲得するためには研修だけでなく、モチベーションを上げる取り組みも並行しなければいけません。
そのため、ハードSであるシステムにも目を向ける必要があるのです。
スキルを獲得することによって給料が上がることや要職に就くチャンスが与えられるとなればスキル向上を意欲する社員は増えてくるでしょう。
このように、一つの要素を改善しようと思うのならば、単体で改善するのではなく複合的に改善しようとする試みが欠かせないのです。
マッキンゼーの7Sモデルにおいても、7つの各要素はお互いが手を取り合って成り立っていると説明されています。
変革というと劇薬を求めたがる経営者も多いでしょうが、そこをグッと堪えることが欠かせません。
腰を据えてハードSとソフトS両面をじっくりと変えてこそ組織としてのケイパビリティを高めることができるのです。
今回は組織の変革について考えるフレームワークをご紹介させていただきました。こちらの記事では、工場経営の変革を実現するためのステップについて記載されています。合わせてご一読ください。