PLMとは?
PLMとは、「Product Lifecycle Management」の略称です。日本語では「製品ライフサイクル管理」と訳されますが、何を意味しているのかピンと来ない方も多いのではないでしょうか。
製品ライフサイクル管理とは、製品の企画・設計・生産・販売・廃棄・再生までの一連の情報を管理することです。
製品ライフサイクルという考え方は昔からありましたが、近年はIT技術が発展してビッグ・データを容易に扱えるようになったため、製造業で再注目されています。
ミクロ/マクロの観点
製品ライフサイクルには「ミクロの観点」と「マクロの観点」があります。
ミクロの観点とは、「企画→設計→生産→販売→保守・メンテナンス→廃棄・再生」という、1個の製品がたどるライフサイクルに注目する観点のことです。
もう一方のマクロの観点とは、「企画→開発→量産開始→生産終了」という、製品計画の全体に注目する観点のことです。
世界初の量産型ハイブリッド車「トヨタ・プリウス®」を例に説明します。ミクロの観点から見た製品ライフサイクルとは、1台の初代プリウスが企画されてから廃棄されるまでの過程のことを指します。
これに対し、マクロの観点から見た製品ライフサイクルとは、初代プリウスの販売プロジェクトが終了するまでの計画全体の流れを示したものです。
初代プリウスの生産終了後、2代目プリウスの企画が始まると新たな製品ライフサイクルが始まります。
PLMの機能
PLMには、製造現場の様々なフェーズで活用できる管理機能があります。主な管理機能は以下の4つです。
変更機能
変更機能は、PDM(Product Data Management)とも呼ばれています。設計のフェーズでは、構想図や部品図や工作図などの様々な図面が作られます。
図面が製品になるまでに、仕様変更や試作・評価結果によって設計変更が発生します。変更機能は、仕様変更履歴や設計変更図面を管理する機能です。また、設計変更に伴い変更される部品表の管理も行います。
権限機能
企画のフェーズでは、企画の進捗状況によって情報にアクセスできる関係者が変わります。
特に企画段階の製品には極秘情報が含まれるため、情報にアクセスできる権限の管理が重要です。設計のフェーズにおいても、デザインのような重要情報については厳重な情報管理が求められます。
情報セキュリティが常識となった近年では、外部からの攻撃による漏洩だけでなく、内部からの情報漏洩にも注意しなければなりません。
外部からの情報漏洩については、何重にもセキュリティを設けて対策できますが、内部からの情報漏洩を完全に防ぐことは困難です。
設計担当者であっても、すべての情報に無条件でアクセスできる状態はセキュリティ上好ましくありません。アクセス権限の適切な管理を行えば、内部からの情報漏洩リスクを減らすことができます。
構成管理
製造のフェーズでは、製品の部品情報管理が重要です。生産開始後に設計変更や仕入れ先の変更などが発生すると、同じ部品でも品番が変わることがあります。
材料の変更で品番が変わることもあるため、一つ一つの製品の情報を適切に管理する必要があります。
製品に何らかの不具合が発生したときに製造時期や製造ラインを特定できるように、厳格な構成管理を行うことが大切です。
追跡性/関連管理
製品の販売後に設計や製造状の不具合が判明したときは、販売情報をもとに問題が起きた製品を追跡して交換や補償などの対応をしなければなりません。
自動車や電気製品など、製品の不具合が人命に関わる可能性がある場合は、何年も前に生産が終了していても追跡と対応が必要になります。
不具合への対応を誤ると、製品が原因で事故が発生したときに製造者の責任を問われます。
有名な事例として、タカタのエアバッグ・リコール問題があります。大規模リコールは企業の存続に関わるため、製品が廃棄されるまで製造者は追跡性を維持する必要があります。
PLMのメリットとは?
既に多くの企業がPLMを導入していますが、IoTの普及やAIの活用により、最近は製品ライフサイクル管理の重要性がさらに高まっています。
ここからは、PLMのメリットについて説明します。
業務時間の短縮
働き方改革により労働への意識が変わりつつありますが、製造業界の現場ではまだ大きな改革が起きていません。
しかし、市場のニーズが多様化したことにより、製品ライフサイクルは年々短くなっています。市場が求めている製品をタイムリーに販売するためには、業務効率の向上が欠かせません。
市場の要求に応えることは、経営上の最重要課題です。市場のニーズを満たす製品をタイムリーにリリースするためには、PLMを活用して製品開発にかかる時間コストを短縮する必要があります。
製造業の現場では、まだアナログのプロセスが数多く存在します。例えば、部品表を確認するために紙に印刷したり、製品データを紙の束で授受したりするケースがよくあります。
特急の設計変更が発生したときに、設計担当者が紙の図面を持って関係部署を駆けまわることもアナログのプロセスといえるでしょう。
PLMによってデータの活用や関係部署との連携が取れれば、開発にかかる時間コストを減らすことができます。
製品の品質の向上
製品ライフサイクルが短くなると、多くの製品を扱うために品質を確認する業務が増えます。
設計部署が新たな部品を次々と製造工程に送り込むと、組み立てミスが起こりやすくなります。たとえデジタルデータで指示を送っても、部品の入出荷を行う作業者がミスを起こす可能性はなくなりません。
そこでPLMを活用してデータ管理と連携を徹底すれば、人為的ミスによる品質の不具合を防げます。さらに、FA(工場の自動化)やIoTと連携することで生産性の向上にもつながります。
コスト管理の効率化
完成した製品は、ただ市場に出せば良いというわけではありません。市場のニーズをとらえた製品であっても、価格が高ければ消費者は購入をためらってしまうでしょう。
製品の販売成績を上げるためには、適切な販売価格を設定する必要があります。PLMは製品の企画・開発にかかる費用や部品の原価などを一括で管理するため、生産終了までにかかる様々なコストを積算して不要な経費を削減することができます。
まとめ
PLMは設計情報だけでなく、製品の誕生から終わりまでを管理するためのツールです。
既にPLMを導入している企業は多いですが、IoTやAIのような先端技術を組み合わせることでさらなる発展が期待できます。
PLMを単なる管理ツールとして使うのではなく、企画から生産終了までの製品ライフサイクルを一元管理することで、コスト削減や業務効率の向上に活用しましょう。
(画像は写真ACより)