見える化とは?

見える化とは、生産現場の目で見えない状況や状態を目で見えるようにすることです。では、生産現場に発生している目で見えない状態や状況とは何でしょうか?

例えば、工場を初めて見学したとき、設備の稼働状況が正常か異常か、パッと見て判断することは困難です。工程が数十もある場合は、工場の全体を見渡すのも難しいでしょう。

製品が整然と流れていますが、本当に無駄なく生産できているのでしょうか?経営者が見て直ぐに判断できるでしょうか?どのような状況でも、見える化は重要な経営課題と言えます。

見える化の導入の流れ

では、見える化を実現するためにはどうすれば良いでしょうか?全ての情報を収集して、グラフや数値で表せば良いのでしょうか?

コンピュータの画面上に全ての情報を羅列しても、作業関係者が情報の意味を理解できなければ役に立ちません。見える化を実現するためには膨大な情報の中から必要なものを抽出し、関係者が理解できる状態にする必要があります。

また、情報を分析して課題を明確にすることも必要です。具体的に何を見える化すれば良いか迷う場合は、重要業績評価指標(Key Performance Indicators)を前提に考えてみてください。重要業績評価指標とは、一般にKPIと呼ばれています。

企業の業績を判断する場合は、売り上げや利益などを参照します。さらに細かく分析するためには、借入金や設備投資や固定資産額などで企業の経営状況を見ることができます。

製造現場でも、設備の稼働状況や不良率や在庫数などで、生産活動の効率を判断します。また設備にセンサを追加して、部品の劣化状態を把握し、交換時期を決定します。

見える化導入の流れは様々です。決まった手順はありませんが、システムとして導入する場合は、最低でもネットワーク環境が必要になります。

成功事例

見える化を導入した各社の成功事例を見てみましょう。

事例1:YKK AP株式会社

富山県黒部市にある黒部荻生製造所は、工場のエネルギー消費量と職場環境を見える化する独自のシステムを導入して、空調エネルギー量を17%削減しました。

黒部荻生製作所は黒部川扇状地にあり、富山湾からの風を直接受ける環境にあります。

一般の工場では、温度や湿度の変化および異物混入による品質への影響を懸念して窓を閉めるため、外気を直接取り入れることはありません。

黒部荻生製作所では、富山湾から吹きつける風の向き・風速・温度・湿度を測定し、風を見える化しています。取得したデータに基づいて窓の開閉を制御することで、空調エネルギーの削減に成功しました。

自然現象とITを組み合わせて、立地条件を上手く利用した事例といえます。

事例2:旭鉄工

愛知県で自動車部品を製造している旭鉄工株式会社は、「製造ライン遠隔モニタリングシステム」を開発して、30%の生産性向上を実現しました。

工程を監視するセンサや設備からの信号を自動で収集し、生産にかかった時間や停止時間を24時間記録して、生産ロスを見える化しています。見える化によって明確になった生産ロスの原因に対策することで、生産性が向上しました。

さらに旭鉄工株式会社は、「i Smart Technologies 株式会社」を設立して、開発したシステムを他社にも提供して収益を上げています。

事例3:長島鋳物株式会社

長島鋳物株式会社は、埼玉県でマンホール蓋枠を製造しています。同社では見える化を実現するために「地域工場・中小企業等の省エネルギー設備導入補助金」を活用し、電気炉と注湯機を更新する際にセンサを新設しました。

最新の設備により、電気炉の温度や注湯機の重量を記録することが可能になりました。記録したデータの解析を重ねた結果、最適な条件で溶湯が自動的に実行できる独自のシステムを構築し、省エネと品質の向上に成功しています。

事例4:富士通株式会社

富士通は、日本のエレクトロニクスメーカであり、総合ITベンダーです。多様化が進む消費者ニーズに対応するため、近年の製造現場には多品種少量生産方式の導入が求められています。

大量生産と異なり、多品種少量生産は生産計画・部品調達・人員配置・稼働率などの情報を効率よく処理する必要があり、業務の見える化が欠かせません。

富士通では、見える化の導入により生産ラインを最適化し、生産効率の20%向上に成功しました。さらに、企業向けの見える化支援サービスを「COLMINAシナリオ」と名付けて商品化し、生産性や品質の向上をサポートしています。

事例5:トヨタ自動車株式会社

トヨタ自動車では、昔から見える化に取り組んでおり、最新のIT技術に頼らない方式で実現しています。

代表的なものが「アンドン」です。アンドンとは、工程内の異常や呼び出しの情報をリアルタイムに表示する電光表示板です。さらにアンドンは、生産ラインのどこからでも見える位置に設置し、工程に発生した異常を関係者に通知する役割を持っています。

アンドンの表示で異常が確認されたときは工程担当の職制が確認し、直ちに異常対応や呼び出し対応を行います。職制の対応が遅れるとラインが停止し、違う工程の職制が対応をフォローする仕組みです。

またアンドンには、生産進捗や稼働率も表示しています。職制や作業者は、アンドンを見ることで生産が計画通りなのか遅れているのかを把握することができます。

見える化導入のポイント

見える化導入のポイントとして、以下の3点が挙げられます。

ポイント1 見える化の対象を明確にする

全ての事象を見えるようにしても、情報を活用できなければ見える化の意味がありません。

既に見える化している仕組みの効率を上げるのか、今まで見えなかったものを見えるようにするのかでは、アプローチが異なります。

初めて見える化を導入する場合は、1度にあらゆるものを見ようとしないで、ターゲットを絞ることが重要です。

ポイント2 人材の確保

見える化を導入・運用するためには、専門的な技術・知見を持った人材が必要です。

外部の専門業者に依頼するのも1つの方法ですが、構築したシステムを継続して維持するためには、仕組みを理解して運用できる人材を社内で確保しておきたいところです。

現場に精通した人材がいなければシステムがブラックボックス化してしまい、見える化システムの稼働状況が見えなくなってしまう可能性があります。

ブラックボックス化が起きると、システムの改修や機能追加が困難になるばかりではなく、運用費用の増加にもつながります。

ポイント3 資金の確保

見える化を行うためには、初期投資が必要です。長島鋳物株式会社の事例のように、補助金を利用する方法もあります。

まずは、安価な投資からはじめて、効果を見ながら追加投資をする方法が良いでしょう。初期段階でシステムの拡張性を追求すると、初期投資が膨らみ過ぎる恐れがあります。

旭鉄工の事例のように、自社でシステム開発できれば良いですが、資金に余裕がない場合は、他社のシステムを購入するのも1つの手です。

見える化システムは1回導入すれば良いというものではありません。1度導入したシステムを維持・更新するために継続的な投資が必要となります。

老朽化してニーズに合わなくなったシステムを使い続けても、せっかく収集したデータが役に立たず、意味のないKPIのチェックを続けることに終始して生産性の向上につながりません。

そしてシステムが陳腐化して使われなくなり、投資がムダになってしまいます。見える化システムに限らず、ITシステムで失敗する典型的な例といえるでしょう。

まとめ

トヨタ自動車の事例のようにITを使わない見える化もありますが、現在ではITを活用する見える化が主流です。

旭鉄工や富士通のように自社で開発したシステムを提供するベンダーもたくさんあります。ITを活用することで、今まで見えなかったものまで見えるようになります。

ただし、見える化しただけでは成果は得られません。見える化した情報を活用して、初めて成果につながることを忘れないでください。

(画像は写真ACより)